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sss石田兄

また痩せたんじゃないのかと苦言混じりの微笑をこぼす影信に、三成は些かばつの悪い思いでいいえと返した。


西軍が東軍に下された時分、三成は一度影信に己を殺してくれと懇願した。
影信は冬空のような灰色の瞳を長い睫毛が縁取る瞼で一度遮り、それからゆるりと息を吐き三成を見据えた。
もう一度言ってみろとの言葉に従い馬鹿正直に殺してくれと三成が告げると、今の今まで物静かで少々腑抜けの気があると認識していた兄は怒りを露わにし、消沈する三成を硬い拳で殴り飛ばし歪んだ双眸から大きな雫をぼろぼろとこぼしたのだ。
誰のために誰のためにと呪詛のように繰り返し、その場に力無く崩れ落ちた兄の食いしばった歯列から漏れるすすり泣きに、三成は酷く後悔したことを覚えている。


「お勤めは宜しいのですか」

「許しは得ている、お前が気にする事じゃない」

言葉こそ冷たいようだが、影信の頬は小さく緩んでいる。


「広い世にたった一人の大事な弟が飯を食わずに餓死するつもりだと吉継に聞かされてな」

「刑部め…」

「人の所為にするんじゃない。それとまた寝ていないらしいではないか」

むっつりと押し黙る三成の頭をぽんと叩き、影信は勝手知ったる己が部屋とばかりに褥を引っ張り出し無造作に敷いた。


「飯は目が覚めたらだ。良い卵を貰った、粥にしてやろう」

「兄上、私は眠くなど、」

「兄が眠いのだ、弟ならば付き合うのが当然だろう左吉」


平素では見せぬような顔でにこにこと笑まれ、三成は己の不利に息を飲んだ。
こうなった兄には昔から勝てた試しがない。
三成は早々に抵抗を止め、影信の隣へと体を沈めた。


「梅干しもあるぞ」

「食えませぬ」

「消化に良いんだぞ、喰わねば叱る」

「いただきます」

「いい子だ」


鼻に慣れた兄の匂いに、三成の思考は徐々に薄れて行く。
幼子をあやす手つきで背を撫でられれば、最早抗いようが無い。
あまりの心地の良さに、寝過ごさぬよう念じつつ、三成は意識を手放した。



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石田兄は弟大好き
刑部も弟だと思っているので同じく大好き


sss石田兄

ざわめく木々が歪な陰影を乾いた地へと映し出していた。
己と主を囲む人影に怯む素振りすら見せず、影信は低く猛々しく咆哮した。
平素の、穏やかとは言えずとも争いを好まぬ男らしからぬぎらつく瞳で、襲い来る黒装束の忍を辺りに散らしてゆく。
理を捨て去らぬまま怒りを露わにし、主を背にした影信は太刀を振るい続けた。

どうやら最後の親玉らしい男に舌打ち、影信は主を見遣り口を開く。


「この御方は俺の道だ」


道、と称された男、奥州筆頭の伊達政宗はそこで漸く我に返り、隻眼を丸くして影信を見詰める。
己に注がれる驚愕に気付くことなく、影信は続けた。


「もう一度言う、この御方は俺の道だ。俺の望み、俺の光、俺のいのち、唯一無二の俺の宝、泰平へ導く標…大切な御方だ。例え御髪の一筋であろうと政宗様を貴様等にくれてなるものか!!」


鋭く尖った灰色の瞳が険を増し、威圧的な空気に肌が震える。
太刀を構え直し足を踏み出した影信に話が違うと呟いた男は、まばたきの間に赤く染まりそのまま崩れ落ちた。
残党を探し素早くぐるりと目玉を巡らせた影信は、未だ唖然とした顔で己を見る政宗の腕を引き寄せた。


「お怪我は御座いませぬか筆頭」

「あ、いや…」

「どこか痛めましたか、」


歩けぬようであるならば私のせなを御使い下さいませ。
政宗の両手を掴んだまま、頭の先から足の先までを診た影信は、幾分か落ち着いた双眸に労るような色を浮かべ政宗の視線へと己のそれを重ねた。


「な…んでもねぇ、平気だ、」

「御顔が赤いようですが、御熱があるのでは…」

「NO!」

「そうですか…それよりも筆頭、だから片倉殿共々申し上げましたでしょう。民に紛れ城下を冷やかして歩くなどお止め下さいと、いくら筆頭が刀を帯び私をお連れになったとて、もしも」

「解った、俺が悪かった!」

「…私からはぐちぐちと言いますまい、次に活かして下さいませ」


ただし片倉殿からの説教はきちんと聞いていただきます。
政宗は影信のぴしゃりとした声音にぐぅと唸り、そうして何かに気付くと薄茶の瞳をぱちくりさせ影信を眺めた。


「如何致しました」

「お前…さっき俺の名を呼んだな?」


徐々に語気を強め詰め寄る政宗に、今度は影信が目を見開き仰け反る番であった。


「とっさのこと故…」「あと、宝とか、いのちとか、大切とか、言ったろ」

「出過ぎた真似を…重ね重ね申し訳御座いません」

「言っただろ!!」


影信は己の二の腕へぎちりと食い込む十指に息を飲み、開き直りに近い様子で言いましたと答え、直ぐに後悔した。
影信を見る政宗の左目は熱をはらんでおり、頬が上気している。
整った顔の薄く紅い唇がふるりと震え、それから影信の唇へと押し付けられた。


腕で首を固定され身動きが取れない。
影信は溜め息を零し、藍色の着物を引き剥がした。


「筆頭」
「政宗」
「筆頭」
「政宗」
「筆頭」
「政宗」
「政宗様」
「ひっと…違ェ!」

「貴方様と言う御方は…」


くつりと影信の喉が鳴り、それから微かな笑い声が湧き上がる。
珍しく感情を表に出し微笑んだ影信の姿に、不謹慎であると自覚しながらも政宗様は見惚れずには居られなかった。



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石田兄本気モード。
一応バーサーカーのお兄ちゃんですから。
腹に飼ってるものもそれなりにあります。
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