被害者が一転、加害者に変貌してから何日か経ちました。
男としてヤってしまった責任を取れと極悪な面の白無垢に迫られ、なし崩しに杯を交わした上に彼方の皆々様方と挨拶させられ同棲が決まった訳なのだが。
男としてと言われてもあの時分俺は女子高生のコスプレで、ついでに堪忍袋がボロ雑巾となっていたので、男としてのプライドとか大人な対応とかが全部メルトダウンして我を失っていたため実は片倉の痴態以外余り覚えていなかったりする。
あんまりブチ切れるなよお前何するか解んなくて怖いからと忠告してくれたいつかの友に謝りたい。
たが聞くぞ友よ、コレは俺が悪いのか。
くつくつと煮立つ鍋に鼻が反応する。
朝故に気怠い身体を起こせば、シックな衣服の上にフリフリの白エプロンを纏った片倉の姿が見えた。
血が回らないので鈍る思考に眩しい光が浴びせられる。
寝起きだ、と些か興奮気味にシャッターを押す片倉の片手はガッツポーズで、朝から頭が痛くなった。
「一緒に住んでんだから、写真…取んなくても」
「あ、ああ…いや、だがアルバムに、」
アルバムとはあれか、職員室の机に飾ってあったカラフルな冊子のことか。
言い返す気力の無いまま片倉の言葉を聞く。
いつも手元に置いておきたいだとか、寝起きが妖艶すぎて堪らないだとか普段寡黙なくせにどうでも良いことをぺらぺら喋る男の腕を引き頭突きしてベットへ沈めた。
ぐっと伸びる背後ですーはーすーはーと荒い呼吸とベルトを外す音がしたが、面倒なので放置して洗面台へ向かった。
朝から元気だな片倉親子、なんて下ネタが頭を過ぎったがシカトを決め込み鏡を覗く。
本日の首筋には鬱血がひぃふぅみー…、新しいのと古いので肌がグロテスクな色合いだ。
今日はタートルを着るかと歯ブラシを手に取る。
勝手に新しくされた贔屓の歯ブラシは今月三本目。
何に使っているのかは同じ性別としてわざわざ問い糺すまでもないが、やっぱり少し気持ち悪い。
ローテーブルに並べられた完璧な【朝食】に唇がつり上がる。
ふっくら炊けた白米に生卵、ワカメの味噌汁に鮭の切り身。
納豆や豆腐がないのは片倉が俺の好みを調べたからだろう。
卵かけご飯は好物だし。
押し殺した喘ぎ混じりの吐息が切羽詰まっていたので、そろそろイくだろうなと見当を付け食卓へ箸を並べる。
――んぐ、ンっ…!
寝室から届いた、枕に口を押し付けたような雄臭い声に思わず下腹がずくりと疼いたが、気合いで収め味噌汁をよそった。
どこか力の入らない様子の片倉に茶碗を渡し、いただきますと掌を合わせる。
卵と醤油を混ぜながら片倉のしわくちゃになっていたエプロンをながめ、今日はホームセンターに寄って黒いシンプルなエプロンを買おうと決心した。
【順応性が高い男+慣れ=異様な光源氏計画】
(フリフリよりシンプル)
(美女より美青年)
(健気で従順で淫乱で、強気で男らしければ更に良し)
(片倉は、)
(ストーカー癖が抜ければなぁ…)