ことり。
比較的新しい陶器の茶碗が座卓に置かれる。
蛾の羽のような兜飾り、本人に言えば無言で数珠が飛んでくるだろう、がふわふわと揺れた。
「馳走であった」
包帯に巻かれた両の掌を合わせ、律儀に一礼する相手に死神はしどろもどろ返事を返す。
お粗末様でしたと言えただろうか。
出逢いから数日経つというのに未だ合わせられない視線に胸が曇るが、此ばかりは慣れなければどうしようもないのだと死神は諦めた。
「ぬしの膳はまこと美味きものよな」
もそもそと白米を頬張っていた死神は、脈絡のない褒め言葉に行儀も考えず、箸先を口に含んだまま驚きに目を見開いた。
眼前に座…否、浮い…いややはり座っている男は、感情の読めない黒い瞳を死神に向けている。
ああ、これはおべっかだ。
本心ではないと解っていても対人関係の経験値がまるで無い死神の頬は、思考とは裏腹に徐々に赤みを帯びていく。
全身に包帯を巻き、蛾に似た兜をかぶり、ただの木で出来た輿を浮かせ、何の原理なのか全く解らない数珠を飛ばす、明らかに地球外生命体だろうと言いたくなるような相手でも、嬉しいことは嬉しいのだ。
「ど、も」
ありがとう。
消え入りそうな声で、今や真っ赤に染まりきった死神は俯く。
「…ぬしは面白き男子よな、」
「からかわないで下さいよ大谷さん、あれだ、嘘でも恥ずかしいんですから」
「あぁ…、すまぬ、すまぬ。ぬしは人慣れせぬのであったな、」
解っているなら、と言いかけた死神の唇に、ざらりとした布の感触が触れる。
白い指が白い粒を攫って、紅黒い咥内に消えた。
「飯粒よ」
黒い目がにたりと弧を描き、朱い口が愉しげに歪む。
これは、友人としてアリなのだろうか。
羞恥に火照る顔を隠すため額に手を当てる死神を見て、大谷はヒヒヒと声を上げた。
――あなたが不幸になりますように――
(大谷さんデザート何が良い?)
(われは林檎がよい)
(兎にしようか…)
(どうとでもするがよかろ)
(じゃあ蝶で)
(…ぬしは器用よな)
(おおおおおべっかなんて要らな、)
(真のことよ)
(ぎゃあああ恥ずかしくて死ぬ!!)
(もう死しておるであろ…)