手を掛けた障子をすらりと開け、男は口の端に笑みを浮かべる。
些か大きすぎる気がしないでもない褥は、二人で入るには丁度良いだろうと笑った国主からの賜り物であった。
竹と雀の刺繍を散らし青を基調とした布団は、男二人が足を伸ばしてもまだ丈に余裕がある。
男は羽織を音もなく脱ぎ捨てると、長い髪を結い直し、腰ひもを抜いた。


軽く暖かい掛布をめくり、大柄な体躯を潜り込ませる。
ぬくい布団の中で暫し指を擦り合わせ、ようやく人並みにぬるくなった手で小十郎の腕を引いた。
胸に閉じるように抱え、前髪の降りた額へ頬を押し付ける。
低く不機嫌な唸りが男の名を呼んだ。
男は眉を八の字に垂らし、力の抜ける腑抜けた面で情けなく笑んだ。


「起こしてごめん」
「…冷てぇ、」
「ごめん」
「…来るのも、遅ぇ」
「うん、ごめん」
「怪我は、したのか」
「いや、傷ひとつ無いよ」


寝起きのためか、小十郎の声は掠れている。
男は寝ぼけ眼で己を睨む小十郎の跳ねた髪を撫で付け、背に回された腕に逆らうこと無く隙間を詰めた。
小十郎は男の首筋へ鼻先をうずめ、大きく息を吸う。


「なら、いい。寝るぞ」
「ああ。おやすみ、小十郎」


焦げ茶の瞳を目蓋が覆い隠し、やがて規則正しい寝息が聞こえた。
眉間の皺が消えた顔は、歳よりも若く見える。
男は小十郎の額へ軽く唇を落とし、離さないようにと力をこめる。


毎晩ではないが、小十郎は出来うる限り、男より先に褥へ潜っていた。
遅れるときには必ず湯たんぽを忍ばせ、男が冷えぬようにと何時でも温めていた。

嗚呼、いとおしい。

じわじわと染み入るのは体温ばかりではないのだろう。
とりとめもなくそう思いながら、男もゆっくりと目を閉じた。