※動物擬き主









せっせせっせとブラシを往復させるセブルスに痛くないかと問われ、喉を鳴らして否定の意を述べた。
セブルスのブラッシングは的確で、とても気持ちが良い。
終わりだ、と告げたセブルスに背を向ける。
毛繕いのお礼である。
艶の増した毛皮は陽の光を浴びて空気を孕み、極上の柔らかさをもってセブルスを受け止めた。
ふこふことした毛に顔を埋め、滅多に変わらない鉄面皮が優しい笑顔でとろけるこの瞬間がたまらなく好きだ。


「お前の世話をするのは僕だからな」


完全に動物として見られているが、己は同級の男である。
喉元へとぶら下がり、胸元の毛に埋もれるセブルスの頬を不満を込めてべろりと舐めれば、痛いだろうと満更でもない囁きが返された。
セブルスが幸せそうなら、それでいい。




【にゃんにゃんにゃん!】



「終わりましたよ!」


微睡みから覚めれば、横たえた身体にかじりついていた少年は爽やかな笑顔で自慢気にそう言った。
ぐるぐると鳴き感謝を伝えると、とろけたような笑顔が返され、些か戸惑う。
ぴかぴかだー、ふわふわだーときゃっきゃする水色の装束の子供たちに一つ頷き、橙色の巨体をくるりと向けてやる。


「え、い、良いんですか!?」


好きにしなさいと言わんばかりに地べたへ伏せれば、わっと歓声を上げた子供たちが一斉に群がってきた。
誰も彼もが嬉しくて仕方がないといった様相である。
遠慮がちな上級生の腕へ太い尾を絡ませ引き寄せる。
初めはおずおずと、やがて幸せそうに胸元の毛皮へと顔を埋めた少年の頬をべろりと舐めた。
何だかとても懐かしい。
あの偏屈な男は無事で居るだろうか。
幸せなら、それで良い。


遠くから聞こえるいけいけどんどんの声に抑えきれない溜め息を溢し、澄んだ青空に流れる白い雲を目で追った。