わんわんと翅音が唸る。
空を覆い尽くさんばかりに肥大した黒い塊の中、お前らだけなら別に構わなかったんだがなぁ、と。
緑青の装束に身を包んだ青年が頭を掻いた。
やる気の無さそうな赤銅色の瞳を気だるげに細め、青年はちらりと後ろを窺う。
隠れるように、すがるように足元へ引っ付いていた小さな小さな忍のたまご達は、眼前の『先輩』を見据えていた。


「別にいいさ、雁首揃えて怪しげな女に懸想しようが、平和ボケしようが、困るのはお前らだからな。六年なんだから、自己責任、わかるよな?今まで六年かけた経験や何やらぜぇんぶパァにして就職口どころか忍にすらなれなくとも、自己責任。てめぇのケツはてめぇで拭く、当たり前だ。もっともプロに近いのが忍術学園の六年生、学年の誰よりも学園を気にかけ、後輩を守んなきゃなんねぇ、それが六年だろ。先輩方から教わったことだろ。そんな俺らが、後輩泣かせちゃダメだろ、他の誰でもねぇ俺らがよ」


鼓膜を揺さぶる翅音に気圧された天女が悲鳴を上げる。


「どっちが大事か、判断できるな?俺の蟲に勝てるかどうか、しっかり考えろ。ただしあんまり時間はねぇぞ、腹が減ってんだよ、俺達は」


ぐわんぐわんと空気がうねる。
ぎちぎちと軋み鳴るのは、はてさて、何の音なのか。


【初めまして、生物委員会委員長です。あだ名は女王蜂です】