聖杯戦争も中盤に差し掛かり、残ったマスター達も姿が減った。
購買でエーテルを買い込んだあと、小休止でもしようかとランサーを誘って屋上へ来たのはいいものの…


「これは…なんと言えば良いのでしょう」


困惑した様子のランサーに一つ頷く。
今、俺達は全く同じ気持ちだろうから。
屋上では仲睦まじい様子の主従が、何と言うか、イチャイチャしていた。
しかも複数。
某掲示板ではないが、正しく爆発しろと言いたくなるような光景である。
向こうの隅ではサーヴァントがマスターへ膝枕をしているし、反対側ではマスターがサーヴァントへ膝枕をしている。
両者とも膝に乗った頭をいとおしげに撫でているのだから、始末に終えない。
と言うか、羨まけしからん。
聖杯戦争中なんだぞ、全くズルいじゃないか異性のサーヴァントとか。
しかも、美人の。
もう一度言う。
美人の、異性の、サーヴァントズルい。


若干死んだ目で、隣のランサーへ顔を向け、固まった。
ランサーさん、なんでしょうか、その、恋する乙女のような、熱っぽくとろけた眼差しは。
なんでしょうか、その、口許へ添えられた片手は。
どうして、小声で羨ましいと呟くのですか、貴方は。
あれを見て、羨ましいと、思うのは、仕方ない。
俺だって、可愛い従順で献身的な美少女サーヴァントだったら羨ましいと思う。
けれど、


「あぁ、俺だって主と…」


ああ、うん、わかったから何も言うな、輝く貌のディルムッド・オディナ。
ガチに聞こえる。
ケルト人としてそれは言っちゃいけない。
両方イケるとか洒落にならないぞランサー。

帰ろう、と声をかける。
ランサーは御意とだけ返して、名残惜しげに霊体化した。
マイルームに戻り、一息つく。
傍らにはランサーが頭を垂れ、跪いている。


さっきのあれの話だけれど。
「あれ、とは…屋上の、」


そうだ、と頷いてランサーを見つめる。
出会った頃には死に体だったランサーの双眸は、今やきらきらと輝き綺麗なはちみつ色を見せてくれていた。
床に腰を下ろし、膝を叩く。
男のプライドとかその他もろもろは、今はうっちゃってしまおう。
普段尽くしてくれるサーヴァントに対する労いと考えれば、苦もないことだ。


羨ましいんだろ?
「いえ、ですが…」


遠慮しつつも期待したような顔のランサーへ苦笑する。
早く、と急かせば、彼は頬をさっと紅潮させた。
では、と、引き締まった体躯がこちらへ傾き…


…!?
「寝心地は、あまり良くないでしょうが…お許しください」


気づいたら俺の頭はランサーの太股に乗っていた。
な、何をいってるのか以下略。
恐る恐る髪を梳くランサーの指は槍を握る武人らしく武骨だったが、仕草は驚くほどに優しく、甘やかである。


…ランサー?
「どうか、ディルムッドと御呼びください、主よ」
ディルムッド、いいのかこの体勢で。


逆じゃないのか、と切り出そうとした言葉は、額に吹き付けられた甘ったるい吐息と幸せそうなランサーの笑顔で消えてしまった。


【只今鱒充中】
(………………………………………………いま、でこちゅーされなかったか、俺)