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銀さんと一緒 Fate / Ag





着物の似合う美しい女性に召し上がれ、と差し出された皿の上。
禍々しいオーラを漂わせながら鎮座する黒い物体に、銀さんは脂汗を流し始めた。


「今日は上手に焼けたのよ」


玉子焼きだと言われて、ようやくこれが料理なのだと認識できた。
玉子焼き、そうか、これは玉子焼きなのか。
……玉子焼きなのか?


「おいまてお妙、この子良いとこのお坊っちゃんなのそんなん食わせたら切腹どころじゃすまねーの、」

「あら、だったら尚更家庭料理には縁がないんじゃないかしら、遠慮せずに召し上がってね岸波さん」

「おいおいおいおい核兵器の間違いだろうが。どこが家庭料理?食わなくて良いからな白野、おま、銀さんの言うこと聞いて!腹壊すからやめなさい悪いこと言わないから!」


笑みを崩さない女性に、ますます焦った様子で銀さんは黒い玉子焼きから自分を遠ざけようとする。
卵、お嫌い?と、悲しげな瞳を見てはもう食べないわけにはいかないだらう。
なにこのデジャヴ。
箸を持ち、いただきますと手を合わせた。


「お味はいかがかしら?」

個人的にはもう少し甘い方が好きです。


ばりぼりがりごりと卵にあらざる擬音が口内に響き渡るが、案外大したことはなかった。
だって材料は卵だけなのだ、色も赤くないし、マグロのマリネすっぽんの生き血ゼリー乗せよりは大分美味しい。
覚えてなさいよ子豚!と、どこかでドラゴンの吠える声がしたような気もするが、気のせいだろう。


ありがとう、と伝えると、タエさんは頬を赤らめて笑った。


【銀さんと一緒】



Fate/EXTRA×Ag ss



土の臭い、緑の臭い、人々のざわめきが聴覚を刺激する。
ここはどこだ。
瞳を見開き立ち尽くす自分の頭には、その一点だけが存在していた。



【ネオメロドラマティック】



購買で朝食の焼きそばパンを購入し、マイルームの扉を開けた自分の眼前に広がったのは、見慣れた教室ではなくどこかの町の風景だった。
図書室で見かけたことの有る極東の小さな島国のような町並みに胸騒ぎを覚え、体を反転させれば、確かに存在していたはずの扉は跡形もなく消え去っていて。

人工的でない青空を抱いた地続きのパノラマにムーンセルのバグであろうかと端末を見るも、画面に踊るのはウィルスによるバグのため緊急メンテナンス中の一文だけである。
混乱しつつも魔術回路を探れば、今にも消えそうな程に微かながら従者とのパスは繋がっているようだ。
通りすがる人たちの視線がチラチラと向けられている。

なんだこれは、
改めて頭を抱えた。

七回戦を目前にした猶予期間の後半で良かったと思う。
ガウェインのマトリクスも埋まり、残るは本番でラニの策を待つだけ。
本当に、最後だ。

震える手で拳を握り、通行人の邪魔にならないよう道の隅っこで一通り煩悶した後、踞っていても仕方がないと歩き出すことにした。
いつもカンペキ鉄面皮、あなたの隣に這い寄る蛮勇と名高い岸波白野の適応力を舐めないでもらいたいものである。
この状態がバグだと言うのならここはムーンセルの中のはずで、いずれ問題は解消されあの校舎へと戻るのだろう。
ならば少しぐらい楽しんだところで何の罰が下ろうか、いや、下らない。

……まぁ、過保護なサーヴァントの拳骨と言う名の鉄槌は下るかもしれないが。

端末をいじり、使えそうな機能を確認する。
アイテム、コードキャストは使用できるようだ。
焼きそばパンをかじりながらppを確認すると、此方も問題はなさそうである。
最も、最終決戦を控えた今となっては必要のない物であるのだが。
ひい、ふう、みいと残高を数える自分の視界を覆ったのは、あんみつと書かれた幟であった。
よく見ればそこは小さな購買の様なところだ。
赤い布が敷かれた木のベンチに、大きな赤い傘が日除けとして立っている。
店内で飲食ができるタイプらしい。

食べたい、非常に食べてみたい。

大好物を前にして自然と溢れ出た唾液を飲み下し、メニューに書かれた見慣れない通貨の単位に訝りながらも暖簾を潜る。
着物と言うらしい民族衣装に身を包んだ女の子曰く、どうやらここは「エド」の「カブキチョウ」と言う領域で、宇宙人と共存の道をたどった世界だそうだ。
改めてムーンセルの多様性に感心しつつ、あんみつを頬張る。
初めて口にした大好物は、想像以上に旨いものだった。


格子の嵌まった窓の外、1と0の無い青空に白い雲が漂っている様を感慨深く見詰める。
降り注ぐ太陽の暖かな光に目を細めると、きらりと光る何かが視界に映った。

何か、は人だった。

片袖を脱いだ着物、黒い半袖のインナー、ふわふわしたくるくるの銀髪を風に遊ばせている男が格子越しにこちらを見下ろしているのだ。


「これ見よがしに食いやがってよぉ…チクショー、あん時止めてりゃあなぁ…、俺だって今頃パフェ食い放題だったってのによぉ…」


飢えた獣のような目で瞬きもせずこちらを見据える男は、おどろおどろしい負の雰囲気も相成ってか正直物凄く怖い。
口に入れる寸前だった白玉をゆらりと揺らせば、男の青みがかった銀の瞳も同じく揺れる。
思わず、食べますかと聞いてしまったのは、男の瞳の色が何処と無くアーチャーの鋼色に似ていたからかもしれない。
数時間しか経っていないにも関わらず、有るべき物の不在にじわじわと耐えられなくなってきた自分は、いったいどれだけあの従者へ心を移していたのだろうか。
マジかよラッキーと忙しなく店内へ入ってきた男にメニューを渡し、追加であんみつを頼む。
チョコパフェやらイチゴパフェやら聞こえるが、まぁ良いだろう。


「やー、悪いねぇ奢って貰っちゃって」

……いや、一人だと落ち着かなかったから丁度良かった。


空白の隣に意識を向ければ、銀髪の男はどこぞの神父と同じ死んだ魚のような目で、あんた良いとこの坊っちゃんかと言った。


「迷子にでもなったか」


繋がっているパスを辿れども、鈍く輝く鋼と紅は見当たらない。
気づかない振りをしていたが、指摘された途端息苦しくなってくるのだから、本当にどうしようもないマスターだと自分でも思う。


多分、迷子なんだろうと思う。迎えは来るのだろうけれど、大切な友人とはぐれてしまった。


手の甲に刻まれた令呪を指先でなぞる。
最後の一画から僅に伝わる痛みと熱は、ずっと自分を喚んでいる従者の叫びのようだ。
男は困惑した顔でくるくるの銀髪をわしわしとかき回し、懐から小さな紙を取り出した。
名刺らしいよれた紙には『万事屋銀ちゃん 坂田銀時』の文字が並んでいる。
届けられたパフェの数々をせっせと口に運びながら、坂田銀時は「まぁそんなわけだからよ、」と。
先程とはまるで人が変わったように煌めいた双眸でニヤリと笑う。


「パフェの分初回サービスしてやっから、んな顔すんじねーよ」

……銀時、さん

「銀さんでいーぜ。堅苦しいしゃべり方も要らねぇよ。んで、あんたの名前は?」


随分と久しぶりに感じられる自己紹介を終えると、銀さんは良い名前じゃねーかと鋼色の瞳を緩く細めた。





(さあ砕かれた岩に祈ろうか)



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