ひょんな事から始まったアーチャーの語りは存外に長いものだった。
掃除機から始まり、家電製品、重火器、刀剣類、多種多様な【道具】の素晴らしさを熱弁するサーヴァントの表情は、少年のように輝いている。
とても年上とは思えないような笑顔だが、向けられる度に不思議と胸が暖かくなる。
いつか自社メーカーを、と鋼鉄色の瞳をキラキラさせながら拳を握っているアーチャーに目を細めた。
『私を覚えていないのか、』
月の裏側で見てきた表情は、慇懃無礼な、皮肉げな、哀しげな、悔しげな、そんなものばかりだった。
徐々に力を取り戻し、ぎこちないながらも関係性を再構築して来たものの、やはり以前と同じとは言えなくて。
意図せず溢れただろう呟きに、しまったと言うような顔で口を押さえるアーチャーに胸の中が燻ったのも一度や二度のことじゃない。
電気式の圧力鍋を分解用にもう一つ買いに走ったと言う、倹約家である彼にしては珍しい話に相槌を打ち、当たり前かと苦笑する。
俺は最初から造り直す方向性を誤っていたのだ。
サーヴァントとマスター、センパイとコウハイ、友人であり、相棒、そのどれもが正解で、けれどどれにも当てはまらない。
パッションリップが隠していた記憶を取り戻し、漸く理解した。
「…すまん、少し熱くなりすぎたようだ」
どうも今日は口が滑る。
こほん、と軽く咳払いをしたアーチャーは、困ったように微笑んだ。
いや、面白かった。
「…そうか、ふむ。それならば、いいのだが」
道具について喋ってるアーチャー、可愛かったし。
「…異議を申し立てるぞマスター、私の何処を見てその様な妄言を吐くんだおまえは。間違っても可愛いなんぞ当てはまらんだろうに」
そうかな、可愛いと思うけど。
「おまえは…はぁ。いいかねマスター、良く考えてみたまえ。可愛いと言われて、マスターは嬉しく思うのかね?」
むすっとした強面に照れを滲ませて隣へ腰掛けたアーチャーを見上げ、頭を捻る。
可愛いと言われて嬉しいか、否か。
…………確かにあまり嬉しくないかもしれない。
腕を組み、したり顔でそうだろうなと頷くアーチャーへ身を乗り出し、褐色の頬へ唇を寄せた。
外套と同じ様に顔を赤く染め石化した弓兵の太股へ手を乗せる。
可愛い、言い換えれば、愛しいとか好きってことになるんだと思う。
「なっ!?」
言葉にして、しっくりと馴染んだ。
そうだ、俺はアーチャーが好きなんだ。
表側に居たときから、ずっと。
取り戻してから思い出したと言うのも、大分悔しいのだけれど。
二人用にしては少し狭いベッドへ雪崩れ込み、アーチャーの背へ腕を回す。
躊躇いがちに伸ばされた腕は、一度ふらりと宙をさ迷い揺れて俺の背へと回された。
力強い鼓動が聞こえる。
巡る血潮の熱さが心地好い。
ただいま。大好きだ、アーチャー。
「まったく…待たせ過ぎだろう。おかえり、オレだけのマスター」
【茜へと還る】
(そう言えばアーチャー、その掃除機どこから出したんだ?)
(投影したものだが)
(武器しか出せないんじゃなかったのか)
(何を言うマスター。掃除機も圧力鍋も石釜式オーブンレンジも全て家事と言う戦争で使用する立派な武器じゃないか!!)
(ソウデスネ)