あからさまに機嫌を傾けた男に小十郎は嘆息した。
平素なら、いかにも『傷つきました』と態とらしく拗ね、構え構えと言葉無く小十郎からの何かしらを強請るだけだというのに。
ぴりぴりと肌を刺すのは怒気なのか、覇気なのか。
引き結ばれた唇に自然と視線が吸い寄せられる。
「冗談だとでも思ってるのか」
「冗談以外の何物でもねぇ」
赤く色付き蠢く肉の隙間から、細く長い息が漏れた。
男は長い黒髪をくしゃりと片手でかき回し、口惜しげに唸る。
「お前が可愛い、って思って、言って、それの何が悪い?」
「どう考えてもてめぇの目が悪ぃだろ」
俺は可愛くなんざ、ねぇ。
仏頂面で呟く小十郎に男は呆れたように鼻で笑った。
よっこらせと年寄り臭く立ち上がった男は、背筋を伸ばし微動だにしない小十郎の耳元に口を寄せた。
「好きで好きでどうしようもなく愛おしいから可愛いっつってんだバカ」
小動物的なアレコレも乙女的なふりふりした可愛さも関係ねぇよ。
群青の瞳を揺らし笑む男のこめかみに、てめぇはもっと俺の体面ってやつを考えやがれ、と。
小十郎の拳が飛んだ。
【ゆーあーそーきゅーと!】
(…小十郎はすぐ手が出る)
(てめぇは口で言うより身体に教えた方が手っ取り早いからな)
(ただの照れ隠しだろ)
(ああ?)
(みみたぶ、真っ赤。あー可愛い)
(っ!)
(あいしてる)
(……ああ)