白銀に輝く刀の露を払い、男は光のない目で骸を見渡した。
五体満足に有る物も何処かしらが欠けている物も、先刻まで生きていた者は今や物となり無造作に転がるばかりである。
吹き上がる血飛沫を被った為であろう、男の白い羽織は斑な紅に汚れていた。
ひ、ふ、み、と数え、嘆息する。
向けられた刃はおそらく五十を下らなかったが、終わってみれば刹那の間であった。
血溜まりにしゃがみ込み地べたに尻を着け座れば、誰かの命が袴に吸い上げられてゆく。
生暖かく湿った生地は、男が身じろぐ度にぐじゅりと濡れた音を生んだ。
木の幹に背を預け、刀を抱え力を抜く。
襲ってきた相手の素性も目的も判らぬまま、特段それらを知りたいと思うことも無く、男は大きな欠伸を零した。
考えることは刺客の力不足であったり、羽織の修繕費用であったり、洗濯を頼む女の小言を聞かねばならぬと言う煩わしさである。
面倒臭えと一言呟き、男は静かに瞼を閉じた。
生臭い淀んだ空気を肺一杯に吸い込み、そうして恍惚の表情で息を吐く。
男の口元は歪な微笑を湛えていた。
【×××年前の何処かにて】
(時折訪れる渇きは)(途方もなく赤を乞う)
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・昔の隊長考察
基本的に流血が好きで、好戦的。
一旦戦闘に入ると手加減無しで暴れまくるため、相手が生き残ることはまず無い。
曰わく、殺しが好きなわけではなく勝手に死んじゃうとのこと。
味方、家族以外には危険人物。
多少丸くなったが、現在も大概こんな感じ。
流血を好む攻撃的な自分が嫌になり、諸々の衝動抑えている状態。
矛盾の固まりのような存在。