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分けました

誰も知らない彼女の話を名前変換可能なblogへ移行しました。

以後はそちらで更新します。

ss庭球×死神、異類婚姻譚



不束者ですが、宜しくお願い致します、と。
足元で頭を下げる少年…着飾っているので性別がはっきりとはしないが、恐らく少年であるだろう相手に、男は音を立て石化した。
現状の把握が出来ず脂汗を流しつつ頭を巡らせれば、己を拝み咽び泣く老婆と、驚愕の面持ちで此方を凝視する女がいる。


何が何やら良く解らなかったが、とりあえず膝をつき、足元の相手のおとがいに指を掛け顔を上げさせた。
薄く化粧で彩られた相手の容貌に、男は目を丸くする。

指通りの良さそうな艶やかな黒髪、きめの細かい瑞々しく白い肌、やや上向きがちの薄い唇は艶やかで、鋭い切れ長の瞳と通った鼻筋が涼しげな雰囲気を醸し出している。
相当な美人である。
見覚えのあるような気がするその顔に、男は暫し頭を捻った。

そもそも男がこの場を訪ねたのは、一冊の暦が原因である。
人間より遥かに長命な死神が考え出した、百年暦という横着極まりない商品に印された丸い証を見つけた男は、そう言えば…と昔を振り返る。

六十だか七十だかは定かではないが、戦禍に巻き込まれた少女を哀れに想い助けた記憶があった。
悲惨な光景が広がるなか、唯一生きていた少女を大事に抱えて連れ帰ったのだ。
世話を焼き、傷を癒し、もとの良い状態へと戻ったところで現世へと帰した。
男にとって、それは傷ついた小鳥を癒し自然へ返すような気紛れな行いだったが、少女はいたく感謝して別れ際にこう言ったのだ。
このご恩は、何代掛けても必ずお返し致します、と。

そう言えばそんなこともあったな、と。
懐かしんだ男は、少女と別れた場所へ足を運んだのだ。
果たして彼女はどうなっただろうと言う少しの野次馬根性と、元来の心配性である心根を発揮して。
少女の名前は蓮華と言った。
蓮の花を愛する、可憐な優しい子供だった。


そうだ、そうだった、と一頻り頷いた男は、老婆に体を向け嬉しそうな笑みを見せた。


「蓮華ちゃん」
「神様…覚えていてくださったのですね」
「当たり前だろ。元気だったか?それより、神様は止めてくれって言ったじゃない」
「だって、神様は神様なんですもの。お名前でなんて、畏れ多くて呼べないわ」
「このやり取りも懐かしいね…いや、びっくりした。それにしても本当にそっくりだな、向こうの彼女達は娘さん?お孫さん?」
「彼方は娘で、隣は孫ですよ」
「…そうか、長い時間が経ったんだな」

どこか寂しげな微笑を浮かべた男に、老婆は着飾った子供を誇らしげな様子で紹介する。


「神様、この子は蓮二と言います、あなた様に嫁入りをする、孫です」
「ごめんちょと意味がわからない」


少女の面影が残る老婆に焦ったような制止を掛け、男は蓮二を見た。
『彼女』では無かった少年は、無言で男を眺めている。
ほら、蓮二、と。
老婆に促され立ち上がった蓮二の身の丈は六尺ほどあり、男は軽く尻込みした。
座っている際には気がつかなかったが、案外でかい。


「蓮華ちゃん、俺は…」
「おばあ様、母さん、姉さん、少し外していただけますか」


この方と二人きりで話がしたいのです、と。
沈黙に堪えきれず老婆を呼んだ男の声は、期せずして蓮二の声に遮られることとなった。
あらあらと喜んだ老婆に連れられ、訝しげな母娘が部屋を後にする。
猩々緋の花嫁衣装に身をくるんだ蓮二は、取り残された男へ座布団を勧めると、己も腰を下ろした。


「聞きたいことは多々あるが、先ずは貴方の名前を教えてもらえないだろうか」


神様では呼び辛い。
そう言った蓮二に、男は己の名を告げる。
蓮二は男の名を味わうように口の中で転がし、やがて涼しげな目元を仄かに赤く染め、ふっと微笑んだ。


「では、宜しく頼むぞ旦那様」
「待て待て待ってくれ蓮二君、俺は君を貰うつもりはない。ダメだろ、こういうのは」
「……何を、」


はたはたと手を振り拒絶する男に、蓮二の口がへの字に曲がる。
何を今更、と。
不機嫌さを隠そうともせず、蓮二は声を低くした。


「見ず知らずの男に嫁ぐ為、幼い頃から貴方に費やした、俺の十五年を一体どうしてくれるんだ」
「な、」
「責任をとってもらおうか」


唖然とする男を横目で睨み、蓮二は自らの着物へ手を掛けた。
衣擦れの音が静寂を冒し、脱ぎ散らされる猩々緋が網膜を焼く。
襦袢一枚になった蓮二が勝ち誇ったような微笑を唇に浮かべる頃、漸く男は我に帰った。
己より頭半分ほど小さい年下の少年に覆い被され、男は群青の瞳にうっすらと涙の幕を張る。

最近の子供は発育も良くて、積極的なだなぁ、と。

ここではないどこか遠くを見据え現実から逃げ出した男の首に、蓮二の腕が絡んだと同時、隙を突かれ体勢が入れ替わる。
男の長い髪を指に絡ませ、柳蓮二は見る者を心底恐怖させる冷たい笑顔を作り上げた。


「これは困ったな、旦那様に押し倒されてしまった」
「おまっ…!馬鹿、離せ!!、止めろ顔近づけんなおじさん両手が後ろに回っちゃうからマジで!!」
「俺が今叫んだら…分かっているな?よし、落ち着いて今後の事について話し合おうか、旦那様」




【異類婚姻譚】
(中身は全然蓮華ちゃんに似てない…)
(?)
(わざとらしく困惑した顔止めろ、小首傾げんな白々しい)
(ふ、我が儘な旦那様だ)
(…もうやだこの子怖い)




お嫁さんヤダヤダと駄々っ子してたけど、いざ相手に「いらない」発言されるとイラッとした蓮二。
本人的には強力な守護霊っぽいものゲット的にしか思ってない。
主導権握る気満々。
いけいけガンガンな柳の猛攻に腰が引けてる隊長。

ss庭球×死神、蓮二

※特殊



昼だと言うのに薄暗い廃墟の中、燃え盛る炎が肌を炙る。
生ある者の潰え果てたその場所で、男は誰かの声を耳にした。
ともすれば聞き逃してしまいそうになる嗚咽に導かれ、男は瓦礫の中を進んで行く。

見つけた、と。
一際大きな土壁の下、横たわる啜り泣きの主に眉をひそめた。
かんばせを炎に焼かれ、崩れた瓦礫に手足を潰され、今にも息絶えんとする少女が一人。
男はくしゃりと顔を歪め、やがて溜め息を吐くと虫の息である少女へとその両腕を伸ばした。



【異類婚姻譚】


柳蓮二は、物心付く以前より様々な事柄を教え込まれてきた。
掃除、洗濯、料理、裁縫、茶道、華道、日舞、おおよそ同年代の男の子が近付きもしないことを、蓮二はひたすらに覚えていった。
全ては家のためであり、祖母のためであり、家族のためであった。
屋敷と呼んで差し支えない自宅の彼方此方に掛かる掛軸の姿絵を眺めながら、彼の祖母は幼い蓮二に何度となく繰り返した。


「いいかい蓮二や、この方はね、神様なんだよ。お婆ちゃんを助けてくれた、神様なんだよ。神様が助けてくださったから、お婆ちゃんは生きられた。神様がいなかったらね、蓮二のお母さんは産まれなかったし、お姉ちゃんも蓮二も産まれなかった。私たちがこうして幸せでいられるのは、全部神様のおかげ。だからね、ご恩返しをしなくちゃいけないよ。でもねぇ、蓮二のお母さんも、お姉ちゃんも駄目だったの。だからね、蓮二が神様のお嫁さんになるのよ。蓮二は本当に私の若い頃にそっくりだから、きっと神様も解ってくださるわ。だから、」


十五になったら嫁ぎましょうねぇ、と。
掛軸を見詰め、まるで夢を見ているように微笑む祖母が世間一般で言う『異常』だと気付いたのは、小学生の頃である。
危機感を抱いた柳蓮二は、対策を練るため、事ある毎に祖母へ神様の話を強請った。
何十年も前であると言うのに、神様に出会った体験は祖母の中で色褪せる事がなかったようだった。

神様は美しい男の姿をしている。
神様は黒い着物に白い羽織を羽織っている。
神様のお髪は長く、綺麗だった。
神様は不思議な力を持っている。
神様が触れた顔の火傷は痕一つ残らず治り、潰えた手足は何事もなかったかのように再生した。
神様は優しい。


良かったねえ蓮二、お前は本当に幸福者だよ。
そうやって締め括る祖母に、蓮二はいつも曖昧な笑みを返した。蓮二はちっとも幸せではなかったからだ。
図書館で見つけた本を思い出し、唇を噛み締める。
神様に嫁ぐと言うことは、生け贄にされると言うことだ。
はじめてその意味を理解した時、蓮二は驚愕し、狼狽し、そして泣きわめいた。
死にたくないと母親に訴え、行きたくないと父親にすがった。
しかし両親は、ただただ苦笑するばかりであった。
母の時分も、姉の時分も、十五の誕生日に目一杯着飾り神様を待ったものの、何も現れなかったらしい。
だから大丈夫よと頭を撫でられ安心したと同時に、早合点し、みっともなく騒いだ己へ対して羞恥心が沸いた。
以来、柳蓮二は神様の事をすっかり頭の端に追いやる事となった。
家事は手伝ったが、華道と日舞は辞め、茶道だけを続けた。


そうして何年か経った六月の始めの頃、蓮二は眼前に広げられた赤い着物に頬を引き吊らせ、溜め息を吐いた。


「…母さん、これは女物でしょう」
「仕来たりだから仕方ないのよ。お母さんもお姉ちゃんもこれを着たの。蓮二も着るの。さあ着替えましょう」


金糸や銀糸で彩られた鮮やかな猩々緋の打ち掛けを手に、蓮二は再び深い溜め息を吐いた。
母親達は、息子で着せ替えを楽しめると弾んだ様子で小物を選んでいる。
どれがいいかしらと簪や髪飾りを選び、蓮二を着飾らせると、薄く化粧をさせた。
蓮二は私に似て元が良いからと、新手の自画自賛をする母と姉を尻目に、めっきり衰えてしまった祖母へと向かい合う。
祖母は、皺の多い目元に涙を滲ませ、花嫁衣装姿の蓮二を見ていた。


「お婆ちゃんねえ、神様と約束したの。お嫁さんになりますって。でもねぇ、出来なくてねぇ…よかった、これで約束が果たせる…蓮二、幸せになるんだよ」
「……はい、おばあ様」


ぽろぽろと大粒の涙を流す祖母の目元を指先で優しく拭い、蓮二は苦笑した。
これは柳家における成人の儀のようなもので、パフォーマンスに過ぎぬのだ…とは、喜びにうち震える祖母へ伝える事は出来なかった。

さて、現れるはずのない旦那様でも待つか、と。
余裕綽々と上等な座布団へ腰を下ろした蓮二の斜め横に、なんの前触れもなく刃物で裂いたような亀裂が走った。
次いで、繊細な細工を施された障子のようなものが現れる。
声もなく驚き硬直する母や姉や己を他所に、祖母だけがひどく嬉しげな声を上げた。
神様、と。


【異類婚姻譚:奥様は参謀】
(すらりと開かれた障子から姿を出した『神様』は)
(神と呼ばれるに相応しい容姿をしていた)
(絵姿などとは比べようもない、聞きしに勝るその美しさに、蓮二は息を飲む)
(非現実的な出来事も、己が置かれた人身御供と言う立場も、全てが全てどうでもよくなった)
(この存在が、己の物となる)
(そんな驚喜に小さく震える拳を握り締め、蓮二は幼い頃躾られた通り男へ頭を下げた)


「柳蓮二と申します。不束者ですが、宜しくお願い致します」
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