長谷部と女審神者な夢主。
中性的なので読み方によっては性別指定しなくてもいいのかもしれない。
長谷部が、おとめん。
我に帰ってから切腹しそうだけど、大丈夫かしら(笑)
「主の命とあれば何でも切りますよ」
家臣の手討ちでも寺社の焼き討ちでも。主が命じてさえくれれば、どんな汚れ仕事であろうとも厭わない。自分にとっては今の主こそが全てなのだ。ただ、命じてくれるだけでいい。そう思っての発言だった。
「…それさ、私がそんなことを命令するような主に見えるってこと?」
にこりともせずに言い放つ主の言葉に、一瞬時が止まったかのような錯覚を覚える。主の言葉を認識するとともに体温が急に下がったような感覚になる。人の身体を得ると、今まで分からなかった色々なことが分かってくる。と同時にどう扱ってよいか分かりかねることもある。
そんなつもりではないのに、咄嗟に言葉が出てこない。何か言わなければと思うものの、焦れば焦るほど言葉に詰まる。
「…長谷部、」
どうにかしなければ、だがどうすればいい?自問自答を頭の中で繰り返し意味不明な言葉の羅列だけが脳内を駆け巡る。
「長谷部」
主が自分の名前を呼ぶ。次に出てくる言葉は何だろうか。でしゃばり過ぎだと叱責をくらうか。用済みだとまたいつかのようにどこの誰とも知らぬ者に下げ渡されるか。どこへでも行けと見捨てられるか。不愉快だと刀解を命じられるか。どの選択肢を提示されても不思議ではない。これ以上主に嫌われないためにどの選択肢を選べばいいのかも分からない。必要だと言ってもらえるために、なにか。
「はーせーべー?聞いてる?」
気がつくと、主が目の前で手を振っていた。しまった、と思う前に身体が動く。
「申し訳ありません!主、俺は…」
「いいよ、もう」
主の放った言葉だけが脳内に残る。だがそれを理解するより先に頭の上に何かが乗った。
「今までそれが君の仕事だったわけだからね。君のじん、せい…?まぁ生き方、を否定するわけじゃないし」
頭の上を前後するそれが主の手で、自分は頭を撫でられているのだと理解するのに時間がかかった。主の話している言葉もうまく耳に入ってこない。ただ、主の手から伝わる温度が。感触が。
「…長谷部?」
「も、もうしわけ….っ、」
暖かくて優しいそれが、言外に自分を必要だと言ってくれているような気がして安心してしまうともう駄目だった。
「大丈夫だから、ね?ほら、おいで」
情けない顔を見せたくない一心で伏せたままの態勢でいたのにそれすらも許されない。片手で顔を隠しつつ主を窺えば両手を広げて迎え入れようとしてくれる。迷ったのは、一瞬。主の側に寄れば頭を包まれるように抱きしめられた。慈しまれている、それが実感できるからこそ、今はただ、主の温もりを感じていたかった。