…………アクア・ファンタジア。
水族館と遊園地が一体化した桜庭市最大のテーマパークである。
「予想はしていたけど、人が多いな………。」
「そりゃ、休日だからな。」
本日のメンバーは芳樹、満月、綾人、美穂に加えて守り刀の小狐丸と物吉に鳴狐、
美花、美鳥、美風、美月の11人である。
「ねぇ、あれって綾人さんと芳樹さんに満月ちゃんじゃない?」
「ホントだー!!」
「え、うっそぉ!?本物!?」
受付に並び、談笑していた来援客達は芳樹達を見て黄色い歓声をあげた。
「お待たせしましたー……何名様ですか?」
「大人7人に子供4人で。……あ、乳幼児は無料でしたね。」
「は、はい。」
受付嬢からチケットを貰い、園内に入場すると美穂は美月をベビーカーに乗せた。
「……………。」
「………鳴狐、どうした?」
「視線が気になって仕方がない。」
「鳴狐さん、こういうところ嫌いですか?」
「大事な人と見に来るのは楽しい。………今のところは。」
「……………お前の人嫌いは今に始まったことじゃないからな。」
「あ、ナッキー、こぎにポンポンされた!」
「いいなぁ………。」
「パパ、ポンポンして!」
「はいはい。」
「………さすが子煩悩な綾人だな。」
「芳樹も子供ができたら、絶対子煩悩になるぞ。」
「確かにそれは言えているわね。満月ちゃん大好きっ子だもの。」
「……美穂さん、褒めているのかな。それは。」
「褒めているのよ、これでも。」
園内に展示されている生物達を見ながら、芳樹達はゆっくりと歩いた。
続く。
…………とある昼下がりの午後。綿貫家の別邸にて。
「満月ちゃん、準備はどう?」
「はい、ばっちりです!」
芳樹と満月はキャリーケースに荷物を入れると、玄関の鍵をかけた。
「まとまった休みが取れて良かったですね。」
物吉の言葉に満月はうん、と頷いた。
「さて、と。そろそろ、来るはずなんだけど………。」
「芳樹おじちゃん、満月お姉ちゃん!!」
「物吉ー!!」
「おじちゃん、お姉ちゃん、元気だった?」
美花、美鳥、美風の3人が元気よく駆け寄り、芳樹達に抱き着いた。
「お久しぶりです、美花様、美鳥様、美風様。」
「こら貴女達、いきなり抱き着くのはやめなさいって言っているでしょ?」
「美月ちゃんもお元気そうで………美穂お義姉様。」
「満月ちゃんも相変わらずねぇ。………無理していない?」
「何かあったらすぐに周りに訴えるんだぞ、満月。」
「はぁい。綾人お兄様、心配性なんだから。」
「…………まあ、貴方のシスコンは今に始まったことじゃないからいいんですけど?」
「………………。」
「……美花ちゃん、何があったの?」
「ううん、いつものことだよ?パパが満月お姉ちゃんのこと大好きだー、って言っているから
ママは拗ねているだけ。」
「確かにいつものことだな、それは。」
「ねぇねぇ、それより早く行こうよ、アクア・ファンタジアに!!」
美花の言葉に綾人ははいはい、と頷くと車の扉を開けた。
続く。
第2部が終わり、会場から観客達が退場していくなか、芳樹達は控室に向かった。
「………あ、芳樹さん!綾人お兄様達も!」
「お、智久も来ていたのか。」
「お久しぶりです、皆様方。」
「おう、久しぶりだな。
………しっかし何度見ても鶴丸は別嬪さんだなぁ、おい。」
「やらんぞ、俺に贈られた守り刀だからな。」
「満月ちゃん、初日お疲れ様。」
芳樹に頭を撫でられて、満月はえへへと笑った。
「あー、羨ましいねぇ。」
「まだ俺らは独身を満喫したいからいいけどさ、
将来のことを考えると芳樹も満月ちゃんも大変だよなぁ。」
「そうですよね…………世界を背負って立っているんですから。」
「…………重たいんだよ、変わるか?」
「え、嫌ですよ。僕、重すぎるのは嫌いなので。」
「あはは、ほれ、明日も早いんだろう?皆、公演に備えてぐっすり寝れよー。」
不知火の言葉に全員ははーい、と答えた。
「…………………眠たくなってきちゃった…………。」
「今日は初日だったからね、はい、満月ちゃん。」
「お邪魔しまーす。」
満月は芳樹の背中に乗ると、満面の笑みを浮かべた。
「何か小さい頃を思い出しますね、芳樹さん。」
「そうだね。遊園地に行った時、満月ちゃん転んで泣いて俺がおぶったんだよね。」
「大した怪我もしていないのに、綾人お兄様達、救急車を呼ぶだの入院させるだのと言ってくれて。」
「あら、極度のシスコンじゃないの。貴方。」
「…………まあ、確かに歳が離れているとどうしても甘く見てしまうからなぁ………。」
「そうそう、毎日写真を撮ってはアルバムに収めていたもんな。君らは。」
「…………でもまぁ、それも大事な思い出さ。」
「そうですね。」
芳樹におぶられて安心したのか、満月はウトウトと眠り始めた。
「若旦那様、荷物をお預かりいたします。」
「うん、よろしく。」
荷物を物吉に預け、芳樹は満月の寝顔を見るとクスリと笑った。
「今も昔もこの可愛い寝顔は変わっていないなぁ………。」
続く。
沖田総司を巡る幕末天狼傳の第1部は何事もなく終了を迎えた。
第2部のライブは20分の休憩を挟む形で行われることになり、
観客達はトイレ休憩に行ったり、飲み物を買って時間を潰していた。
芳樹達はペンライトの電池を確認し、赤色にセレクトした。
「……皆、考えることは一緒なのね。」
「そりゃもちろん、満月が大好きだからな。」
「あら、私と満月ちゃん、どっちが好きなのかしら?」
「両方に決まっているだろ……まったく、究極の二者択一は止めないか。」
「綾人兄ちゃん、顔が赤いよ。」
「抓るぞ、幸人。」
「もう抓っているじゃんかー!」
綾人と幸人のやり取りに芳樹と智久は腹を抱えて笑った。
………そして、場内アナウンスが流れ、会場は暗くなった。
「………よし、来るぞ………。」
イントロが流れ出し、曲に合わせてライブ衣裳に身を包んだ満月達が舞台に登場した。
MCタイム(本日の禊も含み)を挟み、歌い舞い踊る満月達に合わせて観客達はペンライトを振った。
そして客降りの曲が流れ、満月達は舞台から観客席に降りた。
芳樹達の姿を見つけた満月はパァ、と笑顔になりウィンクと投げKISSをした。
「ぐはぁ!!」
「ちょっと、芳樹君。鼻血を出さないの、みっともない………。」
慣れた様子で堀川がティッシュを取り出し、芳樹の鼻にあてた。
「め、面目ない………。」
「綾人も、鼻血出さないの。………この服、誰が洗濯すると思って?」
「す、すまない………。」
ライブの時間はあっという間に終わり、トリの曲まで歌い終わると観客席から拍手が送られた。
続く。
「……………あ、若旦那様達。お待ちしておりました。」
芳樹達が桜庭市営文化ホールの劇場に入ると、
守り刀である和泉守兼定と堀川国広が待っていた。
「よ、和泉守、堀川。久しぶりだな。」
「智久様、お久しぶりです。」
「………何で堀川達がここに?」
「ちょっと、闇呪が現れてな。お嬢様の勘が当たったんだ。」
「そうだったのね。お疲れ様。」
美穂が労いの言葉をかけると2人は笑顔を見せた。
「若旦那様、キャーキャーし過ぎてない?」
「キャーキャーし過ぎてると思うけど、清光。」
「あはは、それは確かに言えてるなぁ。
缶バッジガチャ、俺と芳樹は満月ちゃんが当たったが他の皆は外れだ。」
「皆、良い性格しているんだけどなぁ…………。」
「…………若旦那様もタチが悪いですぞ。」
「……おぉぅ、長曽祢がそんなことを言うのか?」
「お前、いい加減蜂須賀とくっつけよな。」
「な、俺に蜂須賀は似合いませんし、若い連中は若い連中とくっついた方がいいでしょう!?」
「若旦那様に向かって無礼だぞ、貴様!」
「もー、長曽祢兄ちゃんも蜂須賀姉ちゃんもピリピリしすぎー!!」
「……賑やかしいのがさらに賑やかになった………。」
「お、奥様、落ち着いてください…………。」
「……とりあえず、そろそろ始まる時間ですし、座りませんか?」
鶴丸の言葉に芳樹達は席に座った。
……そして、場内アナウンスが流れ、舞台が幕をあげた。
続く。