中野:朝日新聞は凄まじくて、2012年の3月10日、つまり震災から1周年の1日前の社説でも、土建国家に戻ることを心配している。1年経っても復興が進んでいないのにです。三陸縦貫自動車道という道路がありますが、まだ工事中で全線開通していなかった。なぜなら『コンクリートから人へ』とか『公共投資はムダである』という議論に巻き込まれたからです。そんな時に震災が起きて、並行する国道45号線が破壊され、ある小学校が孤立した。そこは危なかったのですが、一部できていた三陸縦貫自動車道の供用区間を通って脱出し、全員が助かった。そこで地元の人たちは、三陸縦貫道を『命の道』と呼んで讃えたのですね。もう一つ有名な話は、『くしの歯作戦』です。国土交通省のいわゆる出先機関に東北地方整備局があります。ここの徳山日出男局長が陣頭指揮を執って、道路の障害物を除く啓開を行ったんです。しかし、各地にある整備局は、行革のターゲット、ムダの象徴として廃止されようとしていた。
藤井:沿岸に通じる道が津波でぼろぼろになっているので、物資も運べないし、人も逃げられない。このままだと自衛隊も救援のための重機も入れない。沿岸地域に行くには、背骨のように走る東北道から『くしの歯状』に国道、県道、市道、町道をそれぞれの地域に通さねばならないんです。整備局は、震災後すぐにヘリを飛ばして現地を見て、情報収集しました。その上で、どの道を瓦礫処理して啓開するかの作戦を当日の夜のうちに立てた。上手に選ばないと見殺しになる地域が出てくるし,闇雲にやるわけにもいかない。できるだけ有効適切に重機などのリソースを配分して、どの道を開くかを決めたわけです。
そして翌日の朝、一気に啓開を始め、計画された16本のうち11本を翌日までに通した。それはもう、凄まじく速いスピードで進められたんです。
自衛隊が被災地に行けたのはそのおかげです。自衛隊も重機をもっていますが、数は少なく、使い方もそれほど上手くない。それにもまして土地勘がないので、どう動いていいかわからない。けれども、東北地方整備局通した地域の土建屋さんたちには、そのような知識や勘があるので、速攻で行くことができたんです。だから、彼らのくしの歯作戦なかりせば、自衛隊の到着があと数日遅れたことは間違いない。自衛隊は国民的な喝采を浴びましたが、その華々しい活躍を支えたのは東北地方整備局であり、地域の土建屋さんだったのです。ところが、くしの歯作戦はほとんど報道されなかった。(中略)
中野:地元の建設業の人たちは、徳山局長の指揮のもとにぱっと集まった。その時に発注の金額がいくらになるかなんて誰も計算しませんよ。 ところが朝日新聞は、3月10日の社説で、土建国家への回帰を懸念している上に、こんなことも書いた。三陸縦貫車道を『命の道』と呼んで建設を促進する動きすらある。そして、
もっと地方分権を進めねばならない、と。つまり何を言っているかというと、東北地方整備局は中央集権の出先機関だから要らないということなんです。
東北地方整備局のある方が、唇を震わせて言っていましたね。『俺たちはじゃあ、何をやったら理解してもらえるんだよ!』と。民主党政権のもとで東北地方整備局は廃止の予定だった。閣議決定されているんです。しかし、六百年に一度の大震災が起きて、地方整備局の役割が確認できたというのに、この方針は変更しない。この国は、何をやっても結論ありきで、ダメなんですね。でも、この間、朝日新聞はずっと『被災地はかわいそうだ』というキャンペーンを張っていた。もともと彼らは、地方や弱者に対する配慮が手厚いリベラルな新聞だったはずなんです。ところが、編集委員が署名写真入りの論説や社説でこんなことを平気で書くようになってしまったんですね。

続きは恐らく今日中に