(前略)われわれ一般の国民は、どういうときに混合診療という問題に直面するのかというと、それは『がん難民』になった時です。がんの告知を受けると、通常は手術、放射線、抗がん剤など、国が承認している標準治療を受けます。保険がききますので原則、自己負担は3割りで済みます。これで根治できれば『がん難民』にならず、混合診療の世界も知らないまま社会に復帰することができます。
問題は、がんが進行して全身に転移したときで、こうなると手術と放射線は使えなくなるので、治療法は抗がん剤だけになりますが、これには決定的な弱点があります。薬剤耐性と言って、抗がん剤は使っているうちに、いつか効かなくなる日がくるのです。ほかに承認されている抗がん剤があれば切り替えますが、やがてすべての抗がん剤が効かなくなります。このとき病院から『もう治療法がない』と言われてしまうのです。
諦めきれない患者は、自由診療のクリニックを求めてさまよい始めます。これがいわゆる『がん難民』です。自由診療とは、国が承認していない治療法なので保険がききませんが、これを専門にしているクリニックは世の中にかなり存在します。
混合診療というのは、国が認めた保険診療と、認めていない自由診療を組み合わせて行うことで、現在日本では原則禁止されています。国が認めていない治療が蔓延するのを防ぐためです。このため普通の病院はほぼ100%保険診療なのに対し、自由診療専門のクリニックはほぼ100%自己負担です。
国の審査を受けていないということは、自由診療は安全性や有効性が確認されてないわけですが、『がん難民』はワラにもすがる思いで自由診療のクリニックを訪れます。そういう治療を行うこと自体は違法ではありません。ただ、国の保険が一切使えないので、本来保険がきくはずの入院費や検査費も全額自己負担になります。
もし混合診療が全面解禁されると、自由診療部分は全額自己負担ですが、入院費や検査費などには保険が使えるようになります。というと、患者にとっていい話に聞こえるでしょう。確かに、
負担は若干減りますが、それで誰でも気軽に自由診療を受けられるようになるわけではありません。なぜなら、自由診療は薬価や診療費の水準についても国が一切統制していないので非常に高額で、たとえ入院費や検査費に保険がきいたとしても、一般の所得者にはなかなか負担できない金額を請求されるからです。
(中略)某著名人が『進行がんから奇跡の生還』と週刊誌で話題になった重粒子線治療というのは、日本にまだ3ヵ所しか治療施設が無く、保険がきかず治療費だけで300万円以上の自己負担がかかるのはご存知の方も多いと思います。


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