「あ、先生。これバレンタインのお返しです」
「あら…そんなわざわざ…ありがとうございます」
「先生ーっ!ちょうど良かった、これお口に合うか…」
「まぁまぁ…皆さんありがとうございます。なんだか…すみません」
「いえ、先生にはいつもお世話になってますから!」
「鬼灯様、怒ってる?」
「いいえシロさん。怒っていませんよ」
「でも、いつもより眉毛もよってるし、なんか手に力もはいっ(バキッ)…あ、」
「……ちっ」
「(わぁああ鬼灯様が怖い…!!)」
「うーん…」
「"先生"、どうしました?」
「…鬼灯さま?」
「なんですか」
「いえ…鬼灯さまが私を"先生"と呼ぶのは珍しいと思いまして」
「看護婦長様?いえ、ナース様?あぁ、白衣の天使と呼びましょうか?」
「……怒ってます?」
「いいえ。それより何を唸っていたんですか」
「あぁ…皆さんにお返しをたくさん頂いてしまって…太ってしまうなぁと」
「じゃあ全て燃やせ」
「燃や…っ!?…ふふ、」
「……何笑ってんですか」
「いえ、ヤキモチだなんて可愛いなぁとおもっ…痛たたた!なんでおでこをぐりぐりするんですか!」
「腹立つなぁと」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!で、でも、ほら。よく見てください」
「……?」
「メッセージカード、皆さん"鬼灯様と食べて下さいね"なんて書いてあるんですよ」
「…なんで私と」
「まぁ、あれだけ一日中イライラしながら私を睨んでいれば、誰だって逃げ道を作りますよ」
「……貴女を睨んでいたわけではないです」
「知っています。ところで、鬼灯さまからは何を頂けるんでしょう?」
「……はぁ、適いませんね。どうぞ」
「…リップグロス?」
「"塗ってつやめく、舐めておいしい、かけておいしい"だそうですよ」
「食べられるんですか?」
「水あめのようです」
「"ローズヒップ&ハイビスカス"…わぁ良い香り。ありがとうございます」
「塗ってみてください」
「ん……ほんとだ、ちょっと甘…っ…」
「……思ったより甘くないですね」
「…これが狙いですか?」
「いいえ、貴女が好きそうだと思っただけですよ。口付けくらいいつでも出来ますし」
「……」
「照れない照れない」
「照れますよ!もうっ!」
「あぁ、口付けしたいときの合図にでもしましょうか。その香りがして唇が艶めいていたらいつでも誘いに乗りますよ」
「〜〜〜〜っ!!」
(なによりも甘い)
うちの鬼灯様、ちゅー好きだなぁ
「バレンタインが土曜日だから何なんですか」
「今の世の中、土曜日が仕事の割合なんて5割。半分ですよ半分」
「大体、バレンタインなんて製菓会社の策略にしか過ぎないんですから」
「…鬼灯さま、ひと息入れましょう?」
「おや、まだ起きていたんですか。寝て下さって大丈夫ですよ」
「私もまだ終わりませんし、…チョコレートもありますから、お茶にしましょう」
「徹夜に加えて夜中に糖分ですか。肥えますよ」
「(機嫌悪いなぁ)」
「はい、どうぞ」
「…ココア、ですか」
「ホットチョコレートです。スプーンの先にチョコレートがあって、ホットミルクに溶かして食べるんですよ」
「カロリーが凄そうですね」
「ふふ、肥えちゃいますね」
「…まぁ良いです。頭を使いすぎて疲れてますし」
「はい」
「……ふぅ」
「おいしいですか?」
「普通においしいです」
「なら良かったです」
「…そういえば昔、"アブナイ バレンタインデー"という曲が流行ったのを覚えていますか?」
「え?うーん…どんなのでしたっけ…」
「軽快なリズムと共に、『バンバンバンバンバレンタイン♪』という歌詞の…」
「あっ!最後吹っ飛んじゃうやつですね!というか素敵なバリトンボイスで見事に歌いましたね今…」
「アレ、面白いな」
「…なんか色々混ぜるんですよね」
「釜という釜にチョコレートと爆薬をぶち込みたい」
「地獄中が甘い匂いになりそうですね…そういえば、今年はカカオ投げはやりませんでしたね」
「去年貴女に思いの外強く投げられたので仕事に支障が出ましたからね」
「あ、あれは鬼灯さまが全力で投げろっておっしゃるから…」
「おや?そんなに全力で私の事が好きですか」
「……いじわる」
「チョコレートが甘いのに私まで甘かったら胸焼けを起こすでしょう?」
「…(むぅ)」
「…冗談ですよ。今甘やかしたら、残りの仕事を放棄しかねないので」
「あ、私もまだあるんだった」
「終わったらこれでもかってほど甘やかしてあげますよ。コレ(ホットチョコ)のお礼も兼ねて」
「…楽しみです」
「おや、素直ですね」
「私だって、せっかくの休日でせっかくのバレンタインにお仕事だったのは、寂しいんです」
「……そうですか」
「…っ…な!」
「もうちょっと頑張って下さい」
「さ、さっきまだ甘やかさないって!」
「今のは甘やかしたんじゃありません。私がしたかったから口付けたまでです」
「……甘かったです」
「糖分が補給できて良かったですね」
「肥えちゃいます」
「私の甘さで肥えるなら、ぶくぶくに太っても愛してあげますよ」
「…もうっ!お仕事しますよ…!!」
(瞳にまで甘さを見つけてしまう前に)
バレンタインに徹夜で仕事をさせられていたのは作者です。
アブナイバレンタインデー
知ってる人いるかな…
『バンバンバンバン バレンタイン
バレンタインデー
爆発するよ わたしのチョコは
フラレた女の 恨みチョコ
顔がはんぶん フッ飛ぶヨ!』
「あれくぜっち?」
「あ、黄瀬くん」
「髪切ったんスか?前のふわふわロングも可愛かったっスけど、今のセミロングストレートも似合うっスね!」
「ふふ、ありがと」
「いやぁさすが帝光中の姫っス!」
「…"姫"、なんて…」
「あ、赤司っちー!」
「やぁ、黄瀬に紅瀬。ちょうど良かった紅瀬を探してたんだ」
「…私?」
「あぁ、今日はオレの家で夕飯を食べないか?」
「おぉ!仲良しイトコって感じっスね!」
「わかった。赤司くんの部活が終わるの、待ってるね」
「あぁ」
「いいなぁ、俺もくぜっちみたいな可愛いイトコが欲しいっス」
「黄瀬くんの周りには、いつでも可愛い女の子がいっぱいいるでしょ?」
「いやいや、もちろんファンのコたちも可愛いけど、一緒にいて安心できるような従順妹タイプは中々いないっスよ!」
「今日さ」
「あぁ」
「涼太がお昼にさ」
「あぁ」
「あたしのこと"従順妹タイプ"って言ってたじゃん」
「まさに"従妹(イトコ)"だな」
「従順、だって」
「……」
「従順、素直で逆らわないこと」
「……」
「おかしいなぁ、ふられちゃったよ、征ちゃん」
「…髪は、その所為か」
「ふわふわの長い髪に、おっきな胸。くびれたウエスト。"従順な性格"」
「……」
「あたし、"完璧"なはずだったんだけどなぁ」
「お前は完璧だよ」
「征、ちゃん」
「僕が言う事は全て正しい。お前は可愛い可愛い僕の自慢の"従妹"だよ」
赤司の従妹、同じ"あか"の色が入る親戚。
同じような紅色の髪と瞳、頭も素行も良い。
でも、あたしの"あか"はニセモノ。
人一倍勉強しないと手に入らない成績に、演技だらけの外面。
"あか"と読まない紅瀬(くぜ)の名前。
黄瀬と一文字違いの名前。
同じような綺麗な顔立ち、
スラリと伸びた手足に、大きな胸、くびれた腰。
でも、あたしの"見た目"はニセモノ。
肌と髪には十分に気を使い、食事制限とヨガにストレッチは欠かさない。
目を大きく見せつつ自然なメイクに、小顔に見せる髪型。
2人のおかげで誕生した、帝光中の紅瀬姫。
私はニセモノで出来ている。
あたしはそれでも完璧になりたい。
だって、
ショートの髪型にできなかった私は、少し伸ばせば、また巻けば同じようになるなんて、中途半端な髪型にしかできなかったあたしは、
(まだ"彼"を好き)
元カレが好きすぎて、元カレの好みを追求し過ぎたばかりに、完璧を求めてしまうヒロインちゃん。
完璧(パーフェクト)ってフレーズから、味方は赤司と黄瀬。
失恋したばかりなのも知ってて、ヒロインちゃんの言う"ニセモノ"も、"努力"って言うんだよって本当は言いたいけど、元カレと寄り戻すのは反対だから優しく優しくするだけな2人。
元カレはやっぱり素行の悪くて巨乳好きな彼ですかね。
ちなみに俺司(学校)僕司(自宅)とのイトコってことで、私(学校)とあたし(自宅)に分けてみた。
赤司は俺が学校で素で、僕が自宅で気を張ってるのに対して、
ヒロインちゃんは私が学校で気を張っていて、
あたしが自宅で素。
学校では名字で呼んで、自宅では名前で呼ぶ。
「平和島、」
「あ、矢霧くん。おはよー」
「おはよう。マフィンありがとう、美味かった」
「…マフィン?昨日の?…私、矢霧くんにあげた、かなぁ…?」
「姉さん経由で貰ったんだ。昨日姉さんの仕事場で会ったんだろ?」
「仕事場……あ、"波江さん"?」
「あぁ。調理実習の話と、"平和島"って名字でお前だってわかってさ」
「わざわざお礼に?ありがとう」
「いや、それじゃ」
「(美香ちゃんに悪いから、矢霧くんにはあえてあげなかったんだけど…返って悪いことしたかなぁ)」
「ってことが今日あって、」
「俺にだけくれれば良かったのに」
「え?」
「いや、……で?」
「あ、それで…2人ともに申し訳なくなって…」
「へぇ?」
「直接渡さなかったのは矢霧くんが嫌いなわけではないですし、結局、美香ちゃんの知らないところで矢霧くんに渡してしまったわけですし…なんだかもやもやするんです」
「それはさ、クラスメート全員に言えることじゃない?」
「え、」
「君から貰えなかった男子もいれば、竜ヶ峰くんや紀田くんを好きな女子もいる」
「……あ…」
「だから君がそんなことを悩む必要はないし、それならばいっそトクベツを作るのも手だ」
「……トクベツ?」
「たとえば、そういった物を渡すのは、"俺だけにする"、とかね?」
「臨也さん、だけ…」
「そう!俺なら相手側を気にすることはないし、ましてや俺は君の事を愛しているわけだしね」
「…そっか…そうですね…はい!今度からそうします!」
「(……この子、今の俺の告白聞いてたかな)」
「(臨也さんなら、"人"を愛してるし、平等だってゆってたもんね!)」
("みんな"すき)
平等に人間を愛してると宣言し過ぎて報われない臨也さんと
限りなく平等に周囲を好きなヒロインちゃん
――幸福人形さんが入室されました――
甘楽【あっ幸福さんばんわですっ!】
幸福【甘楽さん、こんばんは】
幸福【あれ?甘楽さんだけですか?】
甘楽【そうなんですよぅー今日誰も来なくって!】
幸福【あらら…私の学校は今日午前中だけでした】
甘楽【へぇ!じゃあ午後は遊びたい放題だったんですね☆】
幸福【はい】
幸福【午前中、調理実習でマフィンを作ったので】
幸福【お世話になっている人に届けてきました】
甘楽【いいなぁいいなぁっ幸福さんのマフィン!】
幸福【バレンタインで、好きな人に贈ろうっていうテーマで】
甘楽【えっ】
「えっ」
甘楽【やだぁもうっいきなりノロケないでくださいよぅ(笑)】
幸福【あっごめんなさい、家族が帰ってきたので今日はここで失礼します】
甘楽【了解ですーっ】
甘楽【お疲れさまでした!】
幸福【お疲れさまでした】
――幸福人形さんが退室されました――
甘楽【じゃあ私も落ちます!】
甘楽【…バレンタインって、こんなに甘酸っぱいんですねぇ】
――甘楽さんが退室されました――
――現在、チャットルームには誰もいません――
――現在、チャットルームには誰もいません――
――現在、チャットルームには誰もいません――…
「静兄っ!おかえりなさい」
「おう、ただいま」
「早かったね」
「あー今日、これから幽も来るって言うから」
「幽兄もっ?わぁ!じゃあいっぱいご飯つくらなきゃ!」
「ははっ、幽そんなに食わねぇだろ」
「マフィン取っておいてよかったなぁ」
「あ、あれサンキュな。トムさんも門田たちも喜んでたぜ」
「ほんと?よかったぁ」
「あんなに作るの、授業中じゃ大変だったろ?」
「材料は自分たちで準備だったし、お菓子作るの好きだから大丈夫だよ?」
「そっか」
「バレンタインでね、好きな人にね、」
「(よしよし)」
(大好きな人がいっぱいいて、幸せです)
みんな好き
臨也さんはパソコンの前で真っ赤になって色々考えてるとこで波江さんに突っ込まれて「そういや波江さんも貰ってるじゃん」って気づいてちょっと落ち込む←