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大切な貴方の誕生日



きっかけは些細な出来事からだった。




ゴールデンウィークだというのに宿題を学校に忘れて来てしまい、夕方急いで校舎へ取りに行った。幸い部活動で校門は空いており、教室から宿題のプリントを持ってくるのは容易かった。急いでプリントをカバンにしまい、廊下を出た所で1人の女子生徒とすれ違う。

「あれ、沢田先輩?」

「夏希ちゃん」

「どうしたんですか?」

声をかけてくれたのは、ふんわりと柔らかい真っ黒な髪を後ろで1つに束ね、制服を着た女の子。にっこりと笑みを浮かべ、立ち止まった。苦笑しながら、カバンの中のプリントをちらりと見せる。

「宿題忘れたことにさっき気づいて、リボーンにどやされて急いで取りに来たんだ。まだ開いてて助かったよ」

「お休み中も部活動している所もありますからね」

「夏希ちゃんは野球部?」

「はい。甲子園に向けて今が頑張り時だって、先輩達張り切ってます。今日も朝から練習で……明日も練習試合なので大忙しです」

ふふ、っと微笑む夏希ちゃん。外にいたせいだろうか。少し日に焼けた頬が夕陽に照らされて、いつもより赤く見える。疲れているはずなのにそれを感じさせない、明るい笑みだ。知り合ってすぐの頃は未来で大変な目に合ったせいか、暗い表情が多かったがこうして明るい表情を見れるようになって本当に嬉しい。

「部活はもう終わったの?」

「はい、部室の鍵も返してきたので後は帰るだけです」

「そっか、お疲れさま」

「ありがとうございます」

「あ……それで今日は駄目だったのか……」

「?」

ふと先日の山本との会話を思い出して、納得する。用事があるとは言われていたが、部活だったのか……。1人納得していると首を傾げる夏希ちゃん。何でもないよ、と手を振る。

「そういえば、夏希ちゃんはプレゼント渡した?今日だよね、誕生日」

「あ……いえ。お兄ちゃんが用意してたのは知ってるんですけど、私は特に……」

「え、」

「え?」

驚いて目を丸くすれば、同じように疑問を浮かべた表情の夏希ちゃんと視線が交差した。混乱する頭を抱えながら恐る恐る確認する。

「ま、待って!お兄さんが用意したって……誰に?」

「雲雀さんに……ですけど」

「……っ、……」

夏希ちゃんの返答に思わず息を呑んだ。固まる俺に、不安そうな声色で尋ねる夏希ちゃん。

「……雲雀さん……のことじゃ、ないんですか?」

「いや、確かに雲雀さんも今日誕生日何だけど……えーっと……」

俺から伝えるべきなのか分からず思わず口ごもる。揺れる視線。それでも真っすぐこちらを見て先を促す夏希ちゃんの強い意志に、ぎゅっと拳を握り締めて口を開いた。



「5月5日、海人の誕生日なんだ……知らなかった?」



「…………え、……」

ぽかんと呆気に取られた表情を浮かべた後、遅れて意味を理解したのか真っ青になる夏希ちゃん。可哀想なくらい動揺で瞳が揺れている。

「……せんぱいの……誕生日……」

鞄を握る手が震えていた。呆然としながら呟かれた言葉に切なくなる。察するに、忘れていたではなく知らなかったのだろう。

「ごめんね、びっくりさせちゃったよね。海人、自分からそういう話しないから……」

「いえ、私から聞くべきだったんです。先輩と付き合えて嬉しくて。浮かれてたから……そんなことも知らないなんて……彼女失格ですね」

「っ夏希ちゃんのせいじゃないよ」

「……、………」

今はどんな慰めの言葉も届かないだろうことは分かっていた。それでもそんな表情をさせたかった訳じゃないのに、何も出来ないことがもどかしい。俯いてしまった夏希ちゃんの肩が震えている。泣いているのだろうか。

しばしの沈黙が続くが、声をかけようと口を開いた時だった。

「っすみません、お先に失礼します」

「え、あ……夏希ちゃん!?」

一礼するとガバっと顔を上げて、そのまま玄関の方へ走り出した夏希ちゃん。呆然とその後ろ姿を見送りながら、どうかうまくいきますようにと願わずにはいられなかった。






「……っはぁ……はぁ……」

走って、走って町中を駆け抜ける。1日外で部活をした身体はとっくに疲れていて、正直すぐに横になりたい。それでもこの足を止める訳にはいかなかった。チラリと携帯の時計を確認する。約束の時間までまだ余裕はあったが、走らずにはいられなかった。息が切れて、胸が苦しい。身体のあちこちが痛むし、米神からはたらりと汗が流れた。それでも、早く、早くと急かさせるようにスピードを上げる。

角を曲がり、目的地の公園に着いた。完全に息が上がり、心臓の鼓動がバクバクと煩いくらいに聞こえる。キョロキョロと公園の中を見渡せば、ベンチに座る1人の黒髪の男子が目に入った。

「せっ……、」

「夏希ちゃん」

声をかけようとするも息が整わず、思わず咳き込む。その音で気づいたのか先輩の視線がこちらへ向くと、ゆっくりと歩いて来てくれる。未だに速く拍動する心臓が大きくドキリと跳ねた。

「走ってきたの?」

座ろうと、促す先輩に頭を横に振って応えると、大きく深呼吸をして呼吸を整える。何度か繰り返す内に心臓と肺が落ち着いてきたのが分かった。その間じっと待っていてくれる先輩。

少し上を見つめれば、継峰先輩と視線が合う。恋焦がれた金の瞳には私だけを映していた。ゴクリと唾を飲み込んで、手に持っていた紙袋から花束を取り出す。そこにはイエローデイジーの小さな花弁が綺麗に咲いていた。優しいクリームイエローの花が白い包装紙に包まれ、赤いリボンで結ばれている。

「っ、おめでとう、ございます」

「……え、」

驚いた表情のまま、勢い良く差し出された花束を受け取る海人。

「今日、お誕生日だって聞きました。わたし……っ継峰先輩のお誕生日知らなくて……何も、用意してなくて」

すみませんと項垂れて謝る夏希。

沢田先輩と別れてから急いで継峰先輩に連絡し、会う約束をした。疑問に思っただろうに、何も聞かず了承してくれた先輩の優しさが有り難くて申し訳なかった。急いで商店街まで走る。時間ギリギリまでお店を見て回ったが、そもそも先輩の欲しいものが分からない。手持ちのお金も少なく、家へ取りに帰る時間も、深く考慮する時間もなかった。焦る気持ちばかりが大きくなり、結局最初に見た花屋さんで花束を購入した。店員さんと相談しながら気持ちを込めて選んだが、予算の関係から随分と小さくなってしまった。誕生日プレゼントだと言うのにテーブルフラワー程度の大きさと本数だ。

「……っ、わたし、」

泣いちゃ駄目だと浮かぶ涙を必死に堪える。それでも、申し訳なくて情けなくて、悲しくて。どうして早く誕生日を聞かなかったんだろうと後悔ばかりが胸を締め付ける。たまたま沢田先輩から聞かなければ、知らないでこの日を終える所だった。

そして、先輩と付き合ってから初めての誕生日だった。再来月には先輩は海外へ行ってしまう。来年の誕生日は一緒に過ごせるか分からないのに。

先輩の誕生日なんだから、とぐちゃぐちゃになりそうな気持ちを押し殺して、笑みを浮かべる。もう一度おめでとうございますと続けようとして、ふと目の前が真っ暗になった。

継峰先輩に抱きしめられたのだと気づくのに数秒かかる。

「せ、せんぱい……?」

驚きで身を強張らせながらも、大好きな人の温もりと匂いに包まれてぐちゃぐちゃだった心が穏やかになっていくのを感じた。溢れる愛しさが温かさとなって全身を巡り、いつの間にか浮かんでいた涙が消えていた。ゆっくりと先輩が離れて金の瞳がこちらを向く。

「夏希ちゃん」

「…………っはい」

「プレゼントありがとう、凄く嬉しいよ」

「でも……っ、」

「正直、自分の誕生日だって今朝まで覚えてなかったんだ。綱吉達からメールが来て、ああそういえば……って思ったくらいで。だから夏希ちゃんが気にすることじゃないよ」

「私は、…………」

「……夏希ちゃん?」

「っ私は、先輩のお誕生日をお祝いしたいです。継峰先輩が生まれて来てくれて、こうして出会えたことが本当に嬉しいから。先輩と一緒にいると、胸がポカポカしてきて温かい気持ちになるんです。こうして手を握ると今度はドキドキして……先輩と会えなかった人生なんて、もう考えられないくらい私は、先輩と過ごす時間が大切なんです」

「……」

「だからっ……、」

その先が上手く言葉にならなくて、口を閉じた。
けど、先輩に伝えたい。受け入れてもらえなくても知っていて欲しいなんて傲慢だろうか。それでも、言葉にすることに意味があると思うから。

ぐっと、右手を強く握りしめる。勢いよく顔を上げて反らさずに真っすぐ、先輩の瞳だけを見つめた。



「継峰先輩、お誕生日おめでとうございます!」



今度こそにっこりと笑って、声を出す。
プレゼントもそうだが、それ以上に伝えたかった言葉、想い。








「…………ありがとう、夏希ちゃん」




黄色い花弁がふわりと風に揺れ、祝福するように宙に舞った。











***


海人くんお誕生日おめでとうございます!
去年は慌てて書いてボロボロだったので、今年は余裕を持って書こうとしたのですが……。普通に放課後設定でツナと夏希ちゃんが会話するところからスタートしていることに途中で気づいて、ゴールデンウィーク中じゃないか!と慌てて修正致しました(笑)

祝日や長期休み中のお誕生日だと、当日お祝いって友達だと難しいですよね……でも、海人くんの場合はツナ宅でお祝いしてたりするのかな?それとも雲雀さんと2人でケーキ食べてたりしたらほっこりしますね。

改めまして、海人くんお誕生日おめでとうございます。海人くんというキャラクターに出会えたことは人生の宝物です。海人くん大好きだぁー!!(笑)

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