ZERO

「以上が先日の柱合会議で言われた内容だ。そなたは知っておく必要があると思ってな」

「…………」

「……大丈夫か」

「……はい、わざわざありがとうございます。悲鳴嶼さん」

「若い身空で酷なことだが…」

「もとより、鬼を倒すためならばこの命惜しくありません」

「そうか、」

「俺は……あの時本当は死ぬはずだった……悲鳴嶋さんのお陰でここにいるんです」

ポン、と頭の上に乗る大きな手。ごつごつとしたよく鍛え上げられている手だ。

確かに感じる温もり。
見上げれば、盲目とは思えない瞳がこちらをじっと見ていた。

「これから任務か?」

「はい、蝶屋敷へ。刀鍛冶の里襲撃で負傷した者たちがまだいるので」

「……そうだったな。よろしく頼む」

「ええ」

静かに去っていく後ろ姿に頭を下げ、反対方向へ向かって足を進めた。




「炭治郎、」

「!　継峰さん、お久しぶりです」

扉を開けると同時に声をかければ、上半身を起こしている竈門炭治郎がすぐ応える。

「!　……誰だかしらないけど、また派手にやったな」

「はは……」

不自然に壊れた窓を見つけて眉を潜めると、苦笑する炭治郎。その仕草で何となく犯人に目星がつく。

(後でしのぶに怒られるぞ……)

そっと嘆息し、ベッドの横にある丸椅子に腰をかけた。

「怪我の具合はどうだ?」

「おかげさまで、足の骨折だけですんでいます。俺気絶してて分からなかったんですけど、継峰さんがみんなを治療して下さったと聞きました。ありがとうございました!」

布団にぶつけるかのような勢いで頭を下げた炭治郎。再び上げた表現は明るい。

「それが俺の仕事だからね」

「……俺も、治療してもらったと聞きました。ありがとう……ございました」

炭治郎の隣からも小さい声が聞こえてきた。顔を向ければ、照れているのか軽く頭を下げる黒髪の少年が見える。その顔には見覚えがあった。

「君は……不死川玄弥だったよな」

「……はい」

「悲鳴嶋さんが心配してたよ」

「そう、ですか」

そう伝えるとやや柔らかくなる表情。その不器用な表現にやっぱり似てるなーと思う。それを本人に言うと怒るから言わないけれど。

「それに、実弥にも玄弥の様子を何度も聞かれたな」

「え……!」

「心配してるんだと思うよ。あいつなりに」

「………」

俯いたまま、両手をギュッと強く握りしめた玄弥の頭にポンと、手を置く。

「知ってるかもしれないけど、実弥は言葉足らずな所があるからさ。もどかしいと思うけど……許してやって」

「っ…」

「鬼殺隊にいる以上、俺たちは常に死と隣り合わせだ。本音を伝えるのは難しいと思うけど、言いたいことは言える内に言うべきだと思うよ」

「っ…そんな簡単な話じゃない!俺は…俺は……っ」

「ちょっと、玄弥!」

声を挟む炭治郎を片手で制し、玄弥と向き合う。

金と黒の瞳が交差する。

「うん、分かってる。玄弥が歩み寄ってるのに無視なんかして、大人げないのは実弥の方かもしれないね。でも……どうか諦めないで。関わるのを止めてしまったら、きっと元の関係には戻れなくなる。本当に大切なことは、自分じゃ気づかないものだから……気づいた時には遅かった、だと……報われないだろ」

「………」

目を合わせない玄弥に苦笑し、そっと割れた窓の外を見る。

澄み切った晴れた青空。
こんな日だからだろうか、過去を思い出すのは。


”海人”


「よし、難しい話はおしまい。じゃあ、治療を始めようか」

「よろしくお願いします!」

「うん、じゃあ炭治郎から。骨折した所出して」

布団をめくり折れた足を出す炭治郎。それを確認すると、腰に指した刀を抜く。

キラリと柚子色に光る刀身。
深く呼吸し、刀を握る手に力を込める。

「いくよ、」

「はい!」

折れた足に向かって、躊躇いなく一気に刀を振り下ろた。

瞬間、
血が吹きでる……ということはなく、患部を柚子色の炎が覆った。

踊るように炎の煌めきが舞う。
光と反射するたびにキラキラと輝く。

その不思議な光景に、炭治郎と玄弥は息を飲む。

「……きれい…」

思わず口から漏れた台詞。
慌てて口を押さえるも聴こえていたのか、海人がこちらを向いて微笑む。

「さあ、次は玄弥の番だ」

こちらを見る金の瞳。
何故か目を反らせなかった。








「継峰さん、ありがとうございました!これで合同訓練に参加できます」

「うん、頑張ってね」

「継峰さんも訓練参加されるんですよね!」

「あー……うん。そのつもりだよ」

「?」

「ただ、義勇の様子がちょっと気になってね。声かけてからにしようかなと思ってる」

「そうなんですね!訓練でお会いできるの楽しみにしてます!」

「ありがとう」

来たときと同様に小さく微笑んだ海人は、ゆっくりその場を後にした。




残った炭治郎は、屈伸をしたり飛び跳ねて体調を確認する。

「おい、炭治郎」

「なに?」

「……さっきの、」

「あれ、玄弥は見たの初めてだっけ?」

そういうと炭治郎は、ひょいと軽く椅子に座って玄弥と向き合う。

「継峰さんが、大地の呼吸の使い手だって言うのは知ってる?」

「ああ。確か……他の呼吸とは違って鬼を切る力はないけど、治癒ができるんだろ」

「そう。とても珍しい呼吸で、今は継峰さん1人しか使い手がいないんだって。だから危険な任務の多い柱に同行することが多くて、継峰さんに会ったことのある人は意外と少ないみたいだね」

「“鬼が切れない鬼狩り”だっけ、」

玄弥がポツリと呟いた言葉に、炭治郎は眉を潜める。

「皆、継峰さんのことよく知らないからそんなこと言うんだよ!継峰さんは凄いんだから。柱との任務が多いから、剣技や体術も一流だし……ただ、鬼にとどめを刺せないっていうだけなんだよ。純粋な手合わせじゃあ、柱にも負けないって富岡さんに聞いたことある」

その能力の貴重性と剣技実力で、柱ではないけれどそれに近い階級を与えられている。

「確か、富岡さんと同期だったと思うよ」

「詳しいんだな」

「偶々俺も柱と任務へ行くことがあって……何回も助けてもらったことがあるんだ。それに……」

「…?」

「柱合会議で禰󠄀豆子が刺されたとき、唯一味方になって怒ってくれた人だから」

「……そう、か」

「継峰さん、いつも優しい匂いがするんだ。嗅いだことのないくらい、いつも……優しい匂いがする」

海人が去って行った扉を見る炭治郎。
その横顔を見ながら、ポツリと呟く。

「似た者同士だな」

「ん?　玄弥、何か言った?」

「いや、なんでもねぇ」

「そっか。玄恭はこれからどうする?俺は早速宇髄さんの訓練に参加してこようと思ってるんだけど…」

「俺は、悲鳴嶋さんに挨拶してくる」

「そっか。じゃあまた後でね、玄弥」

「おう、」

医務室を後にする2人。
廊下をそれぞれ反対方向へ進んでいった。




＊＊＊

オチも何もない……(笑)
今刀鍛冶の里編をしてて見てるんだけど、よくYou Tubeでも鬼滅のMADを見てます。炭治郎くんの名台詞を見てて、海人くんとつい重ねてしまい、鬼滅キャラと絡ませてみてしまった……。炭治郎と同期でもいいなーと思いつつ、気づいたら21歳くらいになってました。柱の皆とつい絡ませたくなってしまう……。
駄文失礼しました。

ザザーッ
ザザーッ……

波打ち際で立ち止まり、大きく深呼吸。

「……んーっ」

鼻から塩っぽい匂いが入り、呼吸と共に抜けていく。

目の前に広がるのはどこまでも続く海。

穏やかな波が寄せては返してを繰り返す。波が打ち寄せる度、白い砂を濃い茶色に染めていく。一定のリズムで繰り返すその様子を眺め、もう一度深呼吸をした。

「ハァー……」

海の匂いを感じ、知らず知らずと顔に笑みが溢れた。口から漏れる笑い声を手で押さえ、そっと目を閉じた。

真っ暗な視界。
感じるのは、心地良い波の音と頬に当たる風だけ。

しっかり砂浜に立っているはずなのに、浮遊感にも似た感覚に包まれる。

ザザーッ…
ザザーッ……

繰り返す波の音
潮の匂い
頬に触れる風

視界は暗いままなのに、さっきよりも海を間近に感じる。

まるで海に抱かれているかのようだ。

不思議と恐怖はない。
むしろ、懐かしさすら感じてホッとするのだ。

(………いつからだろう…?)

子供の頃は、何処までも続く大きな海が怖かった。じっと見ていると打ち寄せる波と一緒に何処までも吸い込まれてしまいそうで。

空と同じ色に染まる青い海を見るのは好きだったけど、好んで何度も来る場所ではなかったのに。

いつからか休日だったり時間があると、車に乗り何度も足を運んでいる。


“……なつき、”


「……っ、」

ボーッと考えを巡らせていると、不意に懐かしい声が頭の中に響く。

今はもう聴くことのできない、愛しい声。

ゆっくりと目を開けると、眩しいほどの光が目に入り、思わずギュッと目を閉じた。

「っ……」

閉じた目を怖々開けると、綺麗な夕日が視界に入った。

ここへ来たときはまだ、海の上にいた太陽。気づけば辺りを朱色と金に染めながらゆっくりと地平線へ移動していた。

夕日と同じ色に染まる空と海。眩しい光を残しながらも、段々と色を変え、辺りを染めながら沈んでいく。

もう20~30分ほどで完全に姿を消すだろう。

「……っ、」

自然と込み上げてくるナニカを抑えるように、胸の前に置いた手をギュッと強く握った。

夕日を見ると切なくなるのは何故だろう。
海に来ると、ホッとするのは何故だろう。


“夏希”


「……海人さん、」

問いの答えは、きっと簡単で。
言葉に出してしまえば、ストンと胸のざわめきが落ち着いた。


海と夕日は、貴方を思い出すんだ。


海のように全てを包み込む大きく広い心。
夕日のようにキラキラと輝く優しい金の瞳。

そのどれもが貴方を彷彿とさせて、嬉しくて暖かくて、悲しくて……切なくて。

それでも、少しでも貴方を感じたくて、ここへ来ていたのかもしれない。



「……海人さん」

届くはずのない言葉。
なのに、口から声が漏れる。

季節外れの海岸には誰もいない。
海に沈む夕日だけが、夏希の言葉を聞いていた。

「……あのね、明日そらが大学に行くのに一人暮らしをするの。海外へ行くために語学や文化を学びたいんですって。息子達もスポーツ推薦で寮のある高校へ進学が決まったわ。みんな夢に向かって進んでる」

ザザーッ、
ザザーッ……

「……わたし、良いお母さんになれたかな。海人さんの分まで…あの子達を愛せたかな?」

夕日が沈んでいく。
貴方の瞳と同じ金の光が消えていく。

手をどれだけ伸ばしても太陽に届かないのは知っている。それでも、惜しむように夕日に向かって手を伸ばす。




「っ……あいたいよ、海人さん」





“なつき、”

愛しそうに、ゆっくりと頬を滑る指。
少しごつごつしているけど、優しく包み込んでくれる手。

“……夏希、”

自身を呼ぶ、愛しい声。
抱きしめられる度に感じた温もり。

誰よりも優しくて、
誰よりも“人”を愛した貴方。

一緒に過ごした時間は短いけれど、沢山の愛情と思い出を私や子ども達にくれた。

そのどれも忘れることなく覚えていたいのに、年月を重ねる度に少しずつ、少しずつ……薄れていくのが怖い。



“……俺は先に逝くけど、夏希は焦って来ないでね”

“……っかいと、さん”

“泣かないで。まだ……今はまだ、その時じゃないから。ねえ、夏希”

“……っ…?”

“逝ってしまった人が何処に行くのか……それは誰も知らないけど、夏希が来るまで待ってると誓うよ。だから、抱えきれないくらい沢山の思い出をもってきて欲しい。どれだけ時間がかかっても、絶対また逢えるって……信じてるから”

“……おばあちゃんになっても、私だって分かってくれる?”

“当たり前だよ”

“物忘れが酷くなって、みんな忘れちゃっても…?”

“俺が覚えてる。夏希のことも子ども達のことも。一緒に過ごした沢山の大切な思い出も。だから、大丈夫”

“っ……海人さん…”

“夏希、愛してる”



「っ……」

伸ばした手の薬指がキラリと夕日に反射して光る。

貴方と私が過ごした時間を繋ぐもの。そっと抱きしめるように指輪に触れれば、確かに温もりを感じた。

「……海人さん、」

愛しい人の名前を呼ぶ。

「海人さん、」

逝ってしまった貴方には、決して届くことはない。それでも、どうか、どうかと願わずにはいられない。



沈む夕日。
貴方の光が消えていく。

それでも、また日は昇るから。

「……また、ね」

微笑みと共に流れる涙。
くるりと向きを変えて、海に背を向ける。

ギュッ、ギュッ

砂を踏むたび、足が少し沈む。
歩きづらさを感じながらも、歩みは止めない。振り返らない。

ピコン!

「?」

不意に携帯の着信音が鳴る。
鞄から携帯を取り出して、通話ボタンを押す。

「あ、お母さん。今どこ?」

「んーとね、海よ」

「ああ、海か。あのね、今日の夜ご飯家族で外食に行こうかって話してて。あの子達がバイト代で奢ってくれるんだって!楽しみー!ねぇ、お母さんはいつ頃帰ってこれそう?」

「ちょっと待ってね……」

時計を確認しながら、通話を続ける。

(海人さん、また思い出が1つ増えそう)

ふふ、と口元に笑みを浮かべ、空を見上げた。夕日が沈み、闇が迫る空。でも、もう寂しくない。



(海人さん、)

逢いたくなったら、また来よう。
きっと、貴方に届く気がするから。



＊＊＊

久しぶりに海を見て、ふと浮かんできたお話。
残された夏希ちゃんにとって、子育て中は忙しくてあっという間だろうけど、落ち着いてからの時間は長いだろうなー。忘れたくない思い出も、時間は無情で人は動画や写真のようにずっと鮮明に覚えていることはできないから辛い。それでも進む先に愛した人が待っていてくれるなら、頑張れるかな……なんて、センチメンタルな気持ちになっちゃいました。
海人くんの最期は夏希ちゃんや子ども達、沢山の仲間に見守られて…が理想ですが、遠くで知らない誰かを助けて亡くなるような気もしてしまいます。最期まで海人くんらしいねって、みんなが泣きながら話していそう。ううぅ、想像すると涙が…(泣)
駄文失礼しました。

「っ待って下さい…」

まさに車に乗り込もうとする海人の服の裾を掴んだ。

すでに車に乗り込んでいる女の子が訝しげにこちらを見る。

「っ……」

震える手と声が情けない。涙をこらえるように唇をギュッと噛んだ。

「夏希?」

「海人さん、わたし……っ」

「海人様!飛行機の時間が迫っています。タクシーも待たせたら悪いですわ」

「……そうですね」

「っ……」

服の裾を掴む手から力が抜ける。あっという間に手が離れた。

俯く視線。
怖くて顔が見れない。

（面倒だと思われたかな）

1年ぶりの帰国。
なのに、海外から海人さんを慕い勝手に追いかけてきた女の子を故郷へ返すため、とんぼ返りすることになってしまった。

しかも僻地の村の長の娘らしく、詳しく村の場所を知っているのは海人さんだけ。すぐ戻れる距離ではない。

（っ……誕生日、だったのに）

今日は海人さんの誕生日。
久しぶりに一緒にお祝いできると、サプライズで色々準備をしていた。

2ヶ月も前から予約した美味しいと評判の人気のお店。

何度も足を運び、やっと決めたプレゼント。

書いては書き直して…を繰り返した手紙。

（分かってる、分かってるよ……っ）

村の場所を知る海人さんにしか、彼女を帰せない。ビザの許可も短く、すぐ出発するしかないって。　

（でも……っ）


“貴女が海人様のお付き合いされている方ですか?”

“えっと……あなたは…?”

“ふーん。見たところ、ただのたいしたことない娘ですのね。貴女、海人様を渡して下さる?”

“っ、何言って……”

“あら、理解力もないのかしら?言葉のままの意味よ。私の村にはあの方の力が必要なの。それに、私だってお慕いしているわ。あの方がいなければ、私はもうこの世にはいなかったんですもの”

“……っ”

“あの方は救世主だわ。神にも等しい。だから、私と婚姻を挙げてずーっと、あの村にはいてもらうのよ。フフッ”

“……どこに帰るか、何をするかは、海人さんが決めることです”

“あら?じゃあ、貴女がその帰る場所だとでも?勘違いではなくて?”

“それは……っ”

“私は、あの方に長の娘の婿として最大限の扱いができるわ。治癒能力も村の中で存分に使わせる。あなたは彼の為に何ができるのかしら?”

“私は……”

“海人様は絶対に渡さない”

宣戦布告するかのように、真っ直ぐこちらを見た赤い瞳。日に焼けた肌に流れる金の髪がよく似合う美人だった。

何も言い返せず黙る夏希を鼻で笑い、肩に手を置く。

“海人様も離れれば直に忘れるわ。だって、本当に大切な女なら側に置くはずでしょ?故郷に置いて何ヶ月も放置して、不安にならない訳ないもの”

“っ……”

海人さんがくれる優しさも、愛情も疑ったことは一度もない。海人さんの帰る場所になると決めたことも、後悔はしていない。

それでも、不安にならない訳では無い。

今回のように、海人さんを慕う人は何人もいた。直接言いに来る人は初めてだったけど。

“私は……海人さんを信じます”

相手に言うだけでなく、自分にも言い聞かせるように言葉を選ぶ。

“フフッ、そう。まあ、黙って見てなさい。彼は私がもらうから”

肩に置いた手を離して、去っていく後ろ姿。海人様、と飛び込むように絡んでいく姿。積極的な彼女の様子にギジリと胸が傷んだ。




「っ……」

ここ数日の出来事を思い出して、心が苦しくなる。

海人さんと彼女は村に着くまで二人きり。

海人さんの意志を尊重すると決めていたはずなのに、嫉妬でぐちゃぐちゃになりそうだった。

バタン、

空港行きのタクシーのドアが閉まる音がした。
これで、また暫く海人さんとは会えない。

（……っ…）

我慢しきれなかった涙が、地面にポタリと落ちた。




「か、海人様?」

「悪いけど、俺はここまでだ」

「っ!」

不意に肩にふれる手。
暖かさに驚いて視線を上げる。視線の先に見えたのは、大好きな金の瞳。

「海人様、どうして……っ」

「空港についたら、村の近くの街までボンゴレの人が案内してくれる。その先は君一人でも行けるはずだ。村から出るのは初めてじゃない……だろう?」

「っですが、私は貴方と…!」

「何度も言ったはずだ。俺には、ずっと待っていてくれる人がいる。大切な人だと」

肩を引き寄せられ、腕の中に入る。
知らず知らずに、涙が溢れた。

「っ!どこにでもいるただの女じゃないですか!なぜっ……私はこんなにもお慕いしているのにっ…」

「……こんな俺を好きになってくれて、ありがとう。でも、俺には夏希だった。好きなのは夏希だけだ」

「……っ」

「さあ、故郷へ帰って。君の帰りを待っている人の元へ」

「海人、さま……っ」




そして、涙を流す彼女を乗せたタクシーは動き出した。

その場に残された海人と夏希。

「海人、さん」

「ん?」

「……すきです、だいすき」

「……夏希、」

「わがままだけど、今日は……っ今日だけは一緒にいたい、です」

「……」

「だめ、ですか?」

ギュッと今度は海人の手を握り、見上げる夏希。ドキドキと心臓の鼓動が煩い。

「だめじゃない。俺だって並盛に帰ってきて夏希と一緒にいれるのをずっと…楽しみにしてたんだから」

「海人さん……っ」

「でも、今日ってなんかあったっけ?」

「え、」

「夏希の誕生日はまだ先だよね」

真剣に考えを巡らす海人の様子に、思わず笑みが溢れた。

「ふふ、」

「?」

「海人さん、」

「ん?」

「お誕生日、おめでとうございます」

「あ……」





とびっきりの愛と、祝福を貴方に。




＊＊＊

確か海人くんの誕生日は5月5日だったなーと思い出して、慌てて書いた文なので荒くてすみません……。
悠太さんの小説に出会い、その中でも海人くんと出会えたことは人生の宝ものの1つです。海人くんという大好きなキャラクターを生み出して下さった悠太さんには感謝で一杯です。

継峰海人くん、お誕生日おめでとう!