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新境地開拓するのは?今でしょ!!
「死神と悪魔」
冥界にて
人間界へ仕事に向かおうとする死神。その前に立ちはだかる異形の少年がいた。
「またお前か、悪魔め」
死神は吐き捨てるように言った。
「そんな言い方はないだろう、僕は心優しい人間の味方なんだ」
「人間の運命は変えられない。定められた日時に必ず死ぬ。余計な真似ばかりするお前を見ていると胸糞が悪い。消えろ」
「嗚呼、死神はなんて冷徹なんだろう!…僕は思うんだ、誰しも突然死ぬのはやりきれない。悔いが残る。もしも自分の死を事前に知ることができたのなら、人はどうするだろう?」
「私には関わりのない事だ」
「…ともすれば、強い意志で奇跡だって起こせるかも知れないじゃぁないかっ!」
大げさに熱弁する異形の少年を、死神は呆れた表情で一瞥した。
「今回は素敵な案件だね、ぜひ君より先回りさせてもらうよ死神クン」
異形の少年は人間界へと降りていった。
人間界
容姿端麗才色兼備な16歳、レイ子。代わる代わるやってくる男子の告白を丁重に断るのが彼女の日課だった。
ある下校時、女友達らに「一人くらい気に入った男子はいないのか」などと囃されるレイ子。「私のお気に入りは今も昔も一人だけよ」…そう答えていた所に、汚い子猿のような中学生が駆け寄ってきた。
「レイちゃん!今日はレイちゃん家でお勉強を教えてくれる日だよね!待ちきれなくて迎えに来ちゃった」
瓶底眼鏡にボサボサの髪の子猿はレイ子に馴れ馴れしい。レイ子も子猿と親しげだ。あまりに不釣合いな二人の画に女友達らは唖然とする。
子猿はレイ子の三つ下の幼馴染みで、名前を一路(いちろ)と言った。みすぼらしい一路の手を引きにこやかに帰っていくレイ子を見て、女友達らは彼女の慈母のような優しさに感心する事しきりだった。
しかしレイ子は自室に着くやいなや豹変する。中学1年では到底解けない問題ばかりを吹っ掛けては、それを口実に一路に体罰を与えた。レイ子は一路の人格を否定する言葉を吐き続けては、むせび泣く一路とその傷をうっとりとした表情で見下ろした。
気が済んだ様子のレイ子は、次に一路を女神のように介抱する。一路の表情を隠す瓶底眼鏡を外しぼさぼさの髪を整えると、彼は幼いながらに美しい顔をもつ少年へと変貌した。一路に汚い風貌をするよう命じたのは他でもないレイ子で、自分しか知らない一路の美しい素顔を眺めては満たされる独占欲に身を震わせていた。
一路はレイ子の命令を忠実に守り、友達はひとりもいない。唯一いるのはレイ子という頭のおかしい「ご主人様」だけ。けれど、これはレイ子も同じだった。彼女が心を開く相手はみすぼらしい「下僕」の一路ただひとり。一路はそれを理解しており、レイ子の横暴を受け入れていた。受け入れるというよりも、この狂った主従関係こそが自分達の正しい愛情の在り方だと確信していた。俗世の言葉を借りるならば、二人はれっきとした恋仲なのだ。
ある日、レイ子の前に奇妙な少年が姿を現す。大まかな姿かたちこそは人間のようだが、肌、耳、瞳…明らかに異形の者だった。
異形の少年は、レイ子が半年後に命を落とす運命になっていると伝えた。信じる素振りのないレイ子に異形の少年はビジョンを見せる。それは、鬼の様な形相をした少年に首を絞められている自身の姿。……成長した一路がレイ子を殺すと言うのだ。
「君しだいで運命を覆せるかもしれない。そもそも突然死ぬはずだった君の前に僕が現れたこと自体、奇跡の始まりじゃないのかい?」
異形の少年は澄んだ目でそう言った。「死に抗い、運命を変えよう」と力強くレイ子を励まして姿を消した。
自分は幻覚を見ていたのかもしれない。レイ子はそう思いもした。けれど死のビジョンは生々しくレイ子にまとわりつく。死ぬ事以上に、一路に裏切られる末路に震えた。
もしも異形の少年の予言が本当なら…いや、そうでなくとも。自分の歪んだ愉悦のために一路が傷ついているのは紛れもない事実なのだ。レイ子は長い夢から醒めたように突然、傷だらけの一路を想い胸を痛めた。
一路はどんなにひどい仕打ちを受けてもレイ子に尻尾を振る。擦り寄って、どこまでも付いてくる。それはまるで雛鳥の「すり込み」のようだとレイ子は思った。へにゃへにゃと笑う一路の顔を初めて冷静に眺めると、笑っているのか泣いているのか分からないような笑顔だった。
「もうそんなダサい眼鏡しなくていい。髪も普通にしていい。学校で友達と喋ってもいい」
「え?」
「勉強も普通に教えるし……もうアンタを傷つける事もしないから……」
レイ子はぶっきらぼうながらに一路を解放した。
それから数ヵ月、二人は「普通の」恋人関係を築いている。一度は去ろうとしたレイ子を、一路が涙ながらに引き止めたのだった。レイ子も「一路さえ許してくれるのなら、」と気持ちを素直に現していく事を決意した。レイ子は無事、普通の女の子としてやり直す事が出来たのだ。
一路はスラリとした美少年に成長しており、レイ子と一路は誰もが息を呑む美男美女カップルとして評判になっていた。誰もが二人の幸せを疑わなかった。
が、突如レイ子は命を落とす。それは異形の少年が現れたちょうど半年後。彼の予言の通り、レイ子は一路に絞殺されたのだった。
……あの日、一路はレイ子との狂った主従関係から突然解放された。けれど、もとより一路にはレイ子しか居ない。レイ子の狂った愛情だけが彼にとっての正しい愛情だった。一路にとってレイ子の言葉は「解放」ではなく「裏切り」でしかなかったのだ。
レイ子が「普通」に接してくるたびに、人知れず一路の中で不安と寂しさが積もり、悲しみ憎しみに変わっていた。そしてついに、
「私とばっかりいないで、いい加減に学校で友達作りなさいよ」
という些細な小言で一路の不信感は爆発したのだった。
「レイちゃんは僕が嫌になって捨てようとしているんでしょう!?」
もみあう間もなく、レイ子は一路に組み伏せられて首を絞められた。
「急に普通の格好をしろって言って、ベルトで叩かなくなって、爪にペンをささなくなって、お風呂やトイレに沈めなくなって…僕の工作を踏みつけて壊したり、クラスの子達の前で頭おかしいフリをしろって命令しなくなって……。」
「飽きたの?僕に飽きて、もういらなくなったんだよね!?だから友達を作れって言うんだよね?いつまでも付いて来てうざったいから、他の誰かに押し付けて逃げようって思ってるんだよね!?」
「ひどいよ、裏切るなんて絶対許さないから。勝手に逃げようったってそうはいかないんだから。だって僕はこんなにレイちゃんが好きなんだよ?ちっちゃい時からずっと、ずっとレイちゃんが僕の全てなんだよ?愛してるんだよ!?こんなに、こんなにレイちゃんを愛してるのに!レイちゃんを愛してるのに!」
ギリギリと首を絞められる間、レイ子の瞳いっぱいに一路の狂気に満ちた顔が写っていた。何をされてもへにゃへにゃと泣くように笑って付いてくるだけだった一路が初めて激昂している。声変わりで掠れた声が、矢継ぎ早に耳を犯す。どんなに虐めても抵抗せず泣くだけだった一路に組み伏せられて、身動き一つできない。この時、レイ子は初めて男女の力の差を感じた。初めて一路に男性を感じた。
「レイちゃん愛してるレイちゃん愛してるレイちゃん愛してる」
目の前には一路の狂気に歪んだ美しい顔、耳には暴力的な愛を囁く掠れ声、喉元には一路の想いに呼応するように力が込められていく筋張った指。
レイ子は苦しさや死の恐怖など忘れる程に、全身で一路に酔いしれた。ゾクゾクと身を震わす快感に溺れ、うっとりと一路を眺めながらレイ子は逝った。
冥界にて。
「いやぁ、今回も奇跡は起こらなかったね」
仕事を終えた死神に、異形の少年がはしゃいだ様子で駆け寄る。死神は侮蔑の表情で少年を見下ろした。
「人間の運命は変えられない。誰よりもそれを知っているくせに、お前は奇跡だなんだと聞こえの良い言葉で人間を焚きつけて面白がる。悪趣味な悪魔がいると胸糞悪い。死んではくれないだろうか」
「いやいや、わからないよ!きらめく絆が人間にはあるんだ!奇跡を信じて!」
明るい言葉と裏腹に、悪魔の少年は下衆いた笑みを満面に咲かせていた。
一応おわり
あらすじのつもりで書き始めたら結構がっつり書いちゃったよ
発想は以前からあったんですけど、ふと人間界の方のネタがおりてきたので今回ざっとかいてみました。眺め神ってやつ。神じゃなくて悪魔にしちゃったけど。
あと、書き直すこともないと思うけど、もし練り直すならこのシリーズに「受け入れられない」も入れたい。
傍から見れば悲惨な事件で死んでるのに本人は幸せに死んだ、みたいなの好きかもしれんのう
拍手絵かえたらここを更新する事にしよっかな。
******
数時間後、矢追と備府は夕食に呼ばれた。テーブルには大きな鍋と取り皿など。メニューはおでんだった。矢追母いわく「おでんは日本有数の低カロリー料理だ」「お昼に友達とスウィーツを色々食べちゃったから、夕食で調整しようと思って」という話だ。
備府は貴重な8月のおでんと向き合った。…そのさなかに矢追がやたらとこんにゃくや卵を「はい、アーン」と勧めてきた事も、芸人を真似たおふざけなのか素なのか、今の備府には理解できなかった。矢追母のてまえ矢追に強くあたれず、備府はされるがままにおでんを受け入れ口に火傷を負った。
「今日は疲れた……」
「そうだね、いっぱい移動したもんね!」
「(コイツいつか殺す……)」
風呂を済ませ、二人は部屋で寝る準備をしている。矢追の部屋にはベッドが一つあり、備府がそちらで寝て、矢追はその下に布団を敷いて寝ることになっていた。それぞれ布団に潜り込み、照明を消す。
「言っとくけどお前、今日一日ではしゃぎすぎてキャラ崩壊しかかってるかんな」
「キャラも何も……いつでも僕は素だよ?」
「ちげー!絶対ちげえー!」
「えー、じゃあ今こっちにいる時の方がより素の状態…なのかな、多分。……まあ、はしゃいでるのは確かだなぁ。僕んちに備府がいるんだもん、そりゃあ楽しいよ」
「……」
「あ、照れた?」
「照れてない!」
「『あ、あの…フヒヒ…ぼ、ぼくも楽しいですフヒヒ…』って思った?」
「わあああてめえブッコロス!!」
挙動不審な時のモノマネをされ、備府はベッドを飛び出し矢追に馬乗りになる。
「キャー備府のケダモノー///」
「うるせぇお前だけは絶対許さん!」
少しの間二人は布団の上と下で暴れていたが、備府は暗闇の中、矢追が少年のように爛々と瞳を輝かせている事に気づいた。
「……なンだよ…」
「えへへ、楽しいね」
「ああもう、そうだな楽しいな!」
観念してのそのそとベッドに戻りかけた備府に矢追が話しかける。
「僕兄弟もいないし、こうやって自分の部屋で誰かと寝るのも初めて」
「…あ、そ……。フーン…」
備府は満更でもない気持ちを悟られるのが癪で、わざと素っ気なく返した。
「……備府」
背後で矢追が起き上がる音がして、備府は少しドキリとする。振り返るとそこに矢追のシルエットがあり、ぬうっと近づいた。
「な、なんだよ……!」
備府はドキドキと身構える。暗い部屋と床ずれの音、間近にある矢追の気配…普段のマンションでの習慣と照らし合わせて、この先起きるであろう出来事を期待した。
「…明日はどうしよっか。川で釣りがいい?山の方に行ってみる?」
「え、……あ、うん…どどどどっちでもいいがな!あえて言うなら釣りかな!?ハハ、ハハハハ!」
「備府、声うるさいよ」
「あ、すんません」
「(うおおおおっっぶねえええ俺はずかしいいいい!!!一人で何エロい事考えてんだよ!はずかしっ!つかダッセえええ!セーフ!セーーーフ!)」
備府の心の叫びが虚しくこだまする。その気のない様子の矢追を前に一人で発情する空回りぶりを恥じたらしい。
「じゃあ明日は釣りね。朝涼しいうちに出るから、もう寝よう」
「お、おう…そうだな…!」
備府は動揺を精一杯抑え、踵を返しながらそう返事した。
「待って。……おやすみ備府」
不意に腕を掴まれ、唇に柔らかいものが軽く触れた。ギョッとして両肩が上がってしまった備府の髪が撫でられる。
「……!」
「…………?おやすみ」
「お、おおお、おう……お、おやすみ…」
完全な不意打ちに驚き、備府は逃げるようにベッドへ這って戻った。その気はないオーラを出してたくせにずるいぞ矢追!そう心の中で叫んでいた。
「……、備府」
「なんだよ!」
「ごめん、やっぱさっきのもう一回しよ、ちゃんとしたやつしよ」
「はあ!?」
「ちょっと唇当てただけじゃ物足りなくなってきたから唇モグモグするくらいのやつさせて」
「ちょ、ちょ、登ってくんな!寝ろ!」
「ちゅーしたら寝るからぁ」
「うわ、ちょ、待っ」
あれよあれよという間に備府は壁に追いつまり、しばらくの間矢追に唇を弄ばれた。
「……、備府。なんか僕ムラムラしてきたんだけど……ダメ?」
「ッ〜〜!いい加減にしろ!寝ろバカ!」
迫って来る矢追をベッドから転げ落とし、備府は布団にシッカリとくるまった。
「ちぇ、じゃあ寝込みを襲おっと。はやく寝てね備府」
「うっせ氏ね!」
さっきまでそんな素振りもなかったくせに、本当に自由すぎる。まったくずるい奴だ。
備府ははずむ息を整えながら、昼に聞いた矢追の言葉を思い出していた。矢追母をさして、天然ボケに付き合うと振り回されて大変だとかなんとか…。全くもってその通りだ。俺はそっくりそのままその言葉をお前に返してやりたいよ!
備府は悶々として、寝付くのに少し苦労したようだった。
******
いつの間にか矢追が持ってきたジュースのコップが水滴だらけになっていた。
「なぁ、お前って親と仲悪いの」
「えっ?なんで??」
会話の途切れ目、唐突に備府から投げかけられた質問に矢追は思わず質問返しをした。
「いや……俺んち、帰るときは親が駅まで来てるし…ウザイくらい色々話しかけられるし、その日は俺の好きなおかずとか出るし…こう、なんだろ、こんな放置するもんなのかなーって…あーあー、何言ってんだろ俺!」
何をへどもどしてるのかと思ったらそんな事考えてたの、と矢追が大笑いする。笑いが止まらず苦しんでいたが、備府が暫くポカンとしてから顔を真っ赤にしてわめくのを横目に見て、あぁ備府は真剣だったのだと理解した。理解するとなお可笑しくて矢追は腹を抱えて悶えた。
「うちは備府んちほど仲良しじゃないかもなぁ。敵う気がしないよ〜」
「うるせーーー!バカにしやがって!!笑うな!関係ねーだろ!!」
「いやぁ、備府って愛されてるんだね〜」
「もういい!だまれ!!!どうせ俺は甘やかされてんだろ!!クソ!!!」
人がせっかく心配してやったのに、とぼやく備府を見ていると矢追はニヤけるのを止められなかった。
「うちさぁ、普段は冷蔵庫には水か麦茶くらいしかなくてね、ジュースなんて入ってないんだよ」
チラリと矢追がコップに目を落とす。備府も視線を追った。
「さっき見たら、台所ジュースだらけだったよ!どんだけ備府と僕を太らせて帰すつもりだよって笑っちゃったよー」
備府はむずがゆそうに黙り込んでいた。
「……それにしても、備府がそんなに親御さんと仲が良いなんて予想外だったなー!そういえば弟くんとも仲いいもんね。羨ましい…っていうか、見てみたいなーそこ。何話すの?」
「だだだ黙れ小僧」
「だってぇ〜」
「ち、違うって!アレは俺が学校行ってるか気にしてて腫れ物に触るようにしてるだけでくぁwせdrftgyふじこlp」
「またまたァ」
「アーーー!言うんじゃなかった!余計なこと言うんじゃなかった!!お前ちょっと頭をバールのようなもので殴打していい!?いいよな!?」
「やめてよ〜最悪の場合死に至るよ〜」
ドタバタと騒いでいると、突然部屋の引き戸が勢いよく開いた。戸の前には矢追母と思しき小ざっぱりとした中年女性が立っており、備府は彼女と思い切り視線がかち合った。ちょうど矢追に手を振りあげている所を見られ、突然の出来事にそのまま硬直してしまっている。
「あらぁ、あなたが備府くんね!ごめんなさいねーこんな辺鄙なところで……ゆっくりしていってね! あ、淳ちゃんもお帰り。ご飯食べたの」
「あ、忘れてた」
備府は矢追母の矢継ぎ早なトークと声色の使い分けに戸惑いを隠せない様子だが、矢追は気にもとめない様子だ。
「あなたね、忘れてたじゃないわよー外で食べてくるなりあったでしょ。備府くんごめんねぇ〜この子気が利かないから!」
「着くのは昼頃って伝えてたから家に何かあるかなーと思ったしー。まさか今日も井戸端会議に出席するとは思いませんでしたしー」
「いやねもう、井戸端会議じゃなくてガールズトークっていうのよ!カフェーでランチよ?」
「(えっ、ピックアップするのそこ?ていうかガールズ…え?ネタ?)」
予想外な矢追母の個性の強さに備府はうろたえた。
「備府聞いた?今ガールズトークって言ったよ!初老なのに!…あっ、備府この人うちのお母さんね!」
「(わかってるよ!逆に母親じゃなかったら誰だって話だよ!怖いわ!)」
矢追母子の会話に備府はうろたえるばかりだ。
「あ…あの……フヒッ…ぼ、ぼくは全然その…あの、お構いなく……ふへっ、へへっ」
「じゃあお惣菜買ってきてるから、コレ食べなさいね、ホラ!あっお箸はないからやっぱり下で食べてちょうだい!じゃあ備府くん、ごゆっくり〜」
「あ、ど、どうも……」
返事をする間もなく、気分次第で次々と話題が変わる。目が回りそうだ。
…自由だ。矢追母には自由の翼が生えている。備府はそう思った。
「強烈でしょ…あれ素だよ、天然ボケなんだよ」
矢追は大げさに、やれやれといった表情を作ってみせる。
「お母さんのおかげで僕、本物の天然って全然可愛くないんだって早くに悟ったんだよ。そういえば備府の好みって天然キャラが多いけど、物凄く振り回されて大変だからね!二次元だけにしといた方がいいよ絶対! あっ、それよりさっきのお惣菜なんだった?シュウマイ?餃子かな?においかいだらお腹すいてきたね!食べに行こっか!」
「……」
身内との会話でその人の素が見えるという。備府も普段は伺えない矢追の素を楽しみにしている節があったが、数分で既に満腹な様子だった。そして、血は争えないものだと心から感じていた。
++++++
矢追母にこんなに尺使うつもりなかったのにwww
追記)
40代を初老というと思っていましたが、自信がなくなってネットで調べてみたところ
辞書では40代を指すが、現代では60代のことをさすだのなんのって……ウーン よくわからん
******
改札を出ると、矢追はまっすぐに待合室へ入った。駅から実家まではバスで四十分ほどかかるが、肝心のバスは一時間に一本しかないのだ、と戸惑った様子の備府に説明した。
小さな待合室の中央には仰々しい扇風機が鎮座していて、天井からテレビがぶら下がっている。冗長なグルメリポート番組を見上げるうちに、矢追も備府も椅子の背もたれから体がずり下がってしまい、まるでどこぞのボスのような姿勢になっていた。
ジーワジーワというセミの合唱をどれだけ聞いていただろう。それに紛れてバスの音が近づいてきた。二人でイソイソと乗り込み冷房の快適さをしばらく賛美した後、備府は矢追による市内ガイドに耳を傾けた。よそ者の備府には正直話の半分以上がピンと来ない上 さしたる興味もなかったが、あれこれと饒舌に喋りかけてくる矢追を眺めていると悪い気はしなかった。
「なあ。お前の家族ってどんな感じ?似てんの」
備府がゴニョゴニョと口ごもり出す。両親への挨拶や矢追宅でのふるまい等を憂慮しているらしい。
「あんまり似てないんじゃないかなぁ。うちはお父さんもお母さんも、なんだかボーっとしてるんだよね。大雑把でテキトーだし、ちょっとズレてるというか自由すぎるというか、電波飛ばしちゃってる時があるし」
全員同じ顔をした矢追一家の図が脳裏に浮かぶ。まんまお前の自己紹介じゃねーか、と備府は言いかけたが、矢追の「似てない」という言葉が本気かジョークか判断しかねたので適当な相槌でお茶を濁した。
******
『淳ちゃん
お母さんはお友達と遊んでくるので、昼ご飯は適当に食べて下さい。 晩には帰ります。 エアコンの掃除とお布団の用意はしてるから、お友達もゆっくりしていってね。(⌒_⌒)』
「……」
まさかの放置に備府は面食らっていた。確かに矢追の母は適当…いや、自由だった。
矢追母の置き手紙に呆然とする備府を背に、だから言ったでしょー ?と矢追は中へ入っていく。備府も慌てて靴を脱ぎ、モタモタと揃えて隅に押しやったあと矢追を負った。
「備府、荷物貸して。僕の部屋に置くから。あ、寝るのも僕の部屋でいいよね?」
「え、あ、おう……」
矢追は母親から「じゅんちゃん」と呼ばれている。
引き戸の隙間から矢追の部屋がチラリと見える。
それだけの事に備府は理由もわからず心臓がバクバクしていた。
「……備府、どうかしたの?」
「えっ、いや……よく分からん…緊張してきた」
「あはは、なにそれ。普通の子供部屋だし…そんな緊張するようなもの何もないよ〜?」
あ、際どいBL本はあるけど…という矢追の呟きは無視された。
「狭い所ですがどうぞ」
備府は矢追の部屋に通された。本当に、なんの変哲もない普通の男子の部屋だ。
青いカーテンが施された窓、その傍には小学生の多くが入学時に買い与えられる、あの学習机。本棚には気取った時期を思わせるCDや書籍・漫画。部屋の所々に年季の入ったキャラクターシールや、それが剥がれた跡があるのがとても親近感が沸く。初めて来たのにノスタルジーを感じる、生活感のある部屋だった。
「あ、飲み物もってくるね。そこらへん適当に座って」
そう言って立ち上がろうとする矢追を備府は見つめた。矢追の幼少からの歩みが見て取れるような部屋の中で、改めて彼を見る。 ウン、とてもしっくりくる…。 俺の知らない矢追が息づく部屋……
「あのさ備府」
ハッと備府が我にかえると、矢追は苦笑していた。
「そんな目に見えてドキドキしてるの見ると…僕もドキドキしてきちゃうんだけどナ」
苦笑だと思ったものは照れ笑いだった。気恥ずかしそうにはにかんで、矢追は頬を掻いている。それを見て、備府は自分を強ばらせていたものの正体が「畏縮」ではなく「ときめき」から来る緊張だと気付き、腑に落ちた様子だった。
が、すぐに新たな気恥ずかしさに襲われ、反射的に声を上げた。
「ばっ、誰がドキドキしてんだよっ!気色悪い事言うなボケカス!!!」
++++++
いつでも打ち切れる範囲で続きを書いてみたり。
大学のテストも終わり、夏休みに突入した。 矢追が実家に帰ると言い出し、何の約束をしていたわけでもないはずの備府はどこか裏切られたような気持ちに駆られ露骨に機嫌を悪くしていた。
「……あのさ、備府も来ない?うちに」
パソコン越しに、バスの予約をしながら矢追が備府に尋ねた。あまりに予想外な言葉に備府は大層すっとんきょうな声を上げたのだった。
矢追と備府の夏休み
実家には「『友人』も遊びに来るから」と伝える、と矢追は慌てて付け足した。それはそうだ。学生の身分に甘え後回しにしているが、ふたりの関係は世間的にも生物学的にものっぴきならない。人生について頭を抱える羽目になってしまう。重く暗い話へ向かおうとする空気を、矢追は慌てて押しやった。
「まあ、その、あんな事やそんな事もしちゃうけどさ、僕たちそれだけじゃないでしょ?元は 親友 だった訳だし…」
「親友だった覚えはないし、親友の言い方がキモいです」
「…でさ、」
「聞けよ」
「勿論人に言えないような部分は伏せる形になるけど、備府が良ければ、僕の育った町も見て欲しいなって……」
少しの間矢追は思案するように目を泳がせていたが、仕切り直すように明るく言った。
「あれだよウン、そんなゴチャゴチャ考えないで、ただ田舎に遊びに行くと思ったらいいんじゃないかな!せっかく夏休みだし泊まる場所に困らないし。結構いい所だよ?僕の地元」
山とショッピングモールくらいしかないけどね、と補足しながら矢追は笑った。
「……」
ぐるぐると悩んでいる様子の備府を見て、矢追は柔らかく呼びかける。
「急だよね。でも本当にめんどくさい他意はなくて、ただの思いつきなんだ。…思いつきだけど、備府もきっと面白いんじゃないかなと思うんだ」
「……」
「人が少なくて気楽だよ。田んぼに水をひくために川がせきとまってて、そこで釣りしたり泳いだりさー、山でカブトムシつかまえる罠仕掛けたりしてー。 あ、どっかのお金持ちの別荘があるんだけどそこが――……」
矢追の訴求の甲斐あってか、備府はおずおずと頷いた。小さい頃から住宅街で育った備府はどこか田舎暮らしに惹かれているのかも知れない。絵に描いたような「夏休み」への憧れもあっただろう。
数日後、二人は荷物を抱えて駅へ向かった。当初は夜行バスで帰省する予定だったが、どうせなら電車に乗って景色を眺めながら遠足気分を味わおうという話になったのだった。
「ちょ、オイまだ座るなって。席ぐるってするから!」
「ぐるってするんだ、うふふ」
「だぁー!うっせバーカ!さっさと立て!」
「はいはーい」
帰省ラッシュにはまだ早い時期で、朝の下り電車は客がまばらだ。はじめはどこか強ばっていた備府も、悠々とした空間に安心したのか普段のテンションを取り戻していた。
備府は座席を向かい合わせにするとサッと窓際に座り、隣に荷物を置いた。
「お前そっちな」
矢追が指定されたのは進行方向を背にする座席。
「あっ、ずるい」
「ボーっとしてる奴が悪いんですぅ〜ざまぁ〜」
憎まれ口をたたく備府はいつもより少しイキイキとしている。サイズが合っていないチェックシャツに、襟元が少しよれたTシャツ、年季の入ったジーンズに安全靴……いつもの備府だが、今日は帽子をかぶっている。サファリハットと言うのだろうか、登山者がかぶるような形の地味な色の帽子だ。矢追はその姿が可愛くて堪らなく、電車に揺られながら黙って何度も盗み見した。
「お菓子食べる?」
「いや俺まず喉乾いてるし……チッ、まだ溶けてねーよなー」
「あ、懐かしいなー!ペットボトル凍らせてるの久々に見た…小学校のころ流行ったよねー」
「は?…え、今しねえの?……するだろ…俺外でないけど」
「今はコンビニでも冷凍したやつ売ってるけど…違……アクエリアスのボトルに麦茶っていうのがこう……うふっ…味と香りのミスマッチさまで脳裏に浮かぶようで……さすが備府さんは揺るぎないなって……」
「フーン、よく分からんけどとりあえず氏ね」
「うふふ」
矢追が頬杖を付きながら笑う。
「……んだよ、ニヤニヤして気色悪ぃ」
「なんか、楽しいなーって」
「はぁ?お前唐突すぎるだろ」
そう言う備府も声が笑っている。
窓の外に見える海が、夏の日差しを受けてチラチラと光る。電車に揺られ他愛の無い会話をしながら、二人はそれを眺めていた。
【とりあえずここまでで終了な】
性 別 | 男性 |
年 齢 | 73 |
誕生日 | 8月18日 |
地 域 | 福岡県 |
系 統 | ギャル系 |
職 業 | 小学生 |
血液型 | B型 |