ある日僕は、近くの海にきていた。
学校帰りで今日は塾もないし、気分転換にでも、と思ったのだ。
あたりはまばゆい
オレンジ色。
夕焼けに染まったこの景色を見ると、僕は何故か満たされた気分になった。
何をしたわけでもない、何かを得たわけでもない、眺めているだけで、すべてをリセット出来るような気さえして。
そんなときだった。
何か光るものが視界に入った。
『鍵…?』
近寄ってみてみると、それは玩具のような小さな鍵と小さく折られた紙の入った小ビン。
パッと見た感じ、鍵はペンダントみたくチェーンがついているもので少し錆びており、古いもののようだ。
もう日が沈む時間。
家に帰れば勉強かテレビかケータイか。
(どうせ暇だし持って帰って中の紙も読んでみるか)
どこかの童話に出てきそうな展開に少し好奇心が湧いてきたのだ。
異世界への鍵だったりして…なんて冗談を考えてみたりして。
変わったものを拾って少し上機嫌な僕はその日、いつもより少しゆっくり家路を歩いた。
きっとこの日の僕の表情は、いつもより生き生きして明るかっただろうな。
家に帰った僕は、
『ただいま!』
と一言家族に声を掛けると、自分の部屋へすぐ駆け上がった。
なぜかドキドキして、宝物を見つけた小さな子供のよう。
椅子にサッと座るとすぐに瓶の蓋を開けて紙を引っ張り出す。
紙をひろげると、
『ずっと返せなくてごめんね。』
その一言だけだった。
((期待外れかな…))
拾った僕も僕だけど。
鍵は鍵をかけたものがあってこそ意味をなすのだ。
((場所とか書いてあるって思っちゃったじゃん…!))
なんだか一気に気が抜けた気がした。
勝手に期待して、外れたからと苛々している僕。
(僕は、人として凄く嫌な奴かもしれないな…)なんて思ったりして。
少し変わった"その"一日は、いつもと変わらない終わり方をした。