広いひろい部屋。
そこが彼女の世界。
とても優しい世界。
世話役のエミリアがたまにいなくなるのが、心が空になるくらいだろう。
それくらいしか波が立たない狭く淋しい部屋、その名は『地下牢』。
美味しい食べ物。
喉を潤す飲み物。
調節された室温。
流れゆくカノン。
乱れのない室内。
笑顔は絶えない。
「ねぇ、エミ」
「なぁに? エイプリル」
甘ったるい声。
返す声は常に笑顔を称えている。
よくあの仮面を被っていられるものだと私は息をついた。
「エミは歩かないの?」
「私はエイプリルとお話するのが楽しいから」
「ワタシだってエミとのお喋りは楽しいわ」
歩くなんて無茶をおっしゃる御嬢様。
エミリアも彼女のお付きなんて災難だこと。
なまじ年齢が近いとこうなるから嫌だわ。
まあ、エミリアは頭のおかしいところがあるから大丈夫なのでしょうけど。
「エミリア、ワタシ、エミリアについて行っちゃダメ?」
「駄目よ。外は悪いものがいっぱいでエイプリルには危ないもの」
水面越しに御嬢様が駄々をこねているのが見える。
最近御嬢様は外の世界に興味をお示し中だ。
生まれ落ちてからずっとあの室内にいるという話なのだから仕方ないだろう。
だが私としてはあんな悪魔を外に放り出すのは止めて欲しい。
自分の力を理解せず弄ぶしかできないのだから。
ただの人間に言わせれば同じ分類なのだろうけど。
ノックが響いた。
エミリアが顔を上げ返事をする。
「別の仕事だ」
「わかりました」
簡単なやり取り。
エミリアは御嬢様に謝罪を述べる。
嫌々と首を振る御嬢様はエミリアの服を掴んで離さない。
緋色の部屋に溶ける緋色のドレス。
悪趣味な配色は今更過ぎてもう慣れたのだけど、そこに影ではない黒が僅かに混じる。
「イヤよ……エミリアが行くのなら、ワタシも行く」
ああ、本っ当に御当主の頭の悪いこと。
暇を知らない子供には意思無き玩具しか与えてはいけないのよ。
玩具を失っては暇を覚えてしまうでしょう?
何も知らない子供には知識有る書物を与えてはいけないのよ。
知識を与えてしまっては外を知りたくなるでしょう?
いくら身体能力が高くともエミリアには御嬢様の力に抗う能力はないのだから。
「ああ……怠い」
欠伸をしながらちょいとロッドを一降り。
霧散した黒い影に気付かない御嬢様と気付いたエミリア。
エミリアは知って当然か。何も知らない御嬢様とは違うのだから。
「ねぇ、エミ」
「なぁに?」
「早く帰ってきてね。退屈しちゃう」
嗚呼、馬鹿な御嬢様!
エミリアが御嬢様に優しいのはそれが莫大な金を齎す御仕事だから。
そして過去に持った罪悪感のためなのよ!
(20100502)
意味わからんが、
エイプリル(御嬢様)→ある金持ちの一人娘。立場上色んな人に狙われているが、桁外れな不思議な力がある。
たまにエミリア以外の人が尋ねてくるが、力が暴走して血の海になってるのであまり覚えていない。
知識やらなんやらはほとんどない。知識があると厄介と考えられたため。
エミリアに敬語やらを使われるのが嫌い。
エミリア→召使。御嬢様とは昔から居て、それなりに情もある。が、力を目にして化け物と思ってしまったことがあり、それを悔いている。
身体能力が高い。普通の人間は追い付けない。家族などはいない。常に笑顔。
私→召使(?)。水鏡で御嬢様の日々を見るという基本暇な仕事をしている。
どうせ御嬢様はエミリア以外の話聞かないし、エミリアは頭おかしいからほっててもいいんじゃない? とは思いながら当主の言うことに従っている。
暴走を止めるのが主だが、家に群がる蟻を助けるつもりは皆無なので御嬢様が喰らうのを止めることはない。当主も黙認。
力は高いが一族ではない。
当主→エイプリルの親。生まれて早々エイプリルを地下牢に隔離。地下牢といっても清潔だし快適。
エミリアを世話役にしたがエミリアが逆らったら面倒なので『私』に監視をさせている。
そのうちエミリアがエイプリルつれて脱走するような話。(まんまと逆らわれてる)
身体能力高いエミリアと力のあるエイプリル。
エイプリルは遊びと思ってる。